サンフランシスコでの滞在も満喫し,次なる滞在地ハワイへ。家族と姪っ子甥っ子ともお別れをして,4時間のフライトの末にホノルル国際空港に降り立った。ホリデーシーズンも過ぎて閑散としてるのかなと思えた。
シャトルバスで宿泊ホテルまで。結局到着したのは現地時間の18:00。インターネット接続を確保してメールチェックなどしているうちに時間が経過した。今回出席する国際会議E-Learnの会場はシェラトンホテル。そのお隣に宿泊している。
とりあえず会場がどうなっているかを下見しに行く。本日のレジストレーションは終了していた。会場ではウェルカムパーティーが行なわれているようだ。ドアから中を覗くが,知った顔は見えない。仕方ないので,一人で夕食をしに外へ出る。
通りは高級ブランドのお店やご存知ABCショップが並ぶ。そして閑散としているなんてウソ。たくさんの観光客に,あっちもこっちも日本人だらけ。はぁ〜,新婚旅行らしきペアも多いが,あの独特な幼さを醸し出す日本の女子学生風グループもウヨウヨしている。職場を思い出すから,あんまり気持ちいいものじゃない。
一人だと何を食べるかとても困る。月並みだが,ピザハットがあったので,そこで食べた。相変わらずボリュームたっぷりである。それから水や食料を少し買い,ホテルに戻る。天気が曇りのち雨のため,少し雨に降られた。
明朝から基調講演と研究発表を聴くことになる。研究の動向を知ることも目的だが,どちらかというと国際学会での作法に慣れることの方が目的。発表者がどんな段取りで会場入りしたり,司会者と話したり,部屋のどこら辺の席を陣取ったり,スライドの準備や,スピーチの始め方や進め方,質問の受け方や答え方,その後の質問者への対応など。そういう身体的な作法などをじっくり確認したい。そういう経験が乏しいから…。
あと,発表内容としては,どんなことに力点を置くものなのか,を把握できたらと思う。今回もたくさんの発表が並んでいるが,それぞれの題目は読めば分かるとして,発表者はどういう着目をして内容を発表するのか。質問する側についても,何に関心を持ちながら話を聞いているのか,そういうことは文字になったものから読み取るのは難しい。「ぶっちゃけ,何が大事なんですか」という議論が展開する場所で理解を深めた方が早い。
そんなわけで,リゾート気分はあんまりないままに,このハワイを過してみる数日である。
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チルドレンズ・ディスカバリー・ミュージアム ((米国滞在記04))
甥っ子の誕生日祝いも兼ねて,サンノゼにあるチルドレンズ・ディスカバリー・ミュージアム(CDM)に出かけた。子ども向けの体験学習施設である。
シリコンバレーにあるとはいえ,ここのCDMの内容はごく一般的なもので,テクノロジー系の展示が特段多いわけではない。テクノロジー系がご所望であれば,別に施設がある。それにかなり年季の入った施設で,わりと雰囲気もアットホームである。ウィークデー(平日)ということもあって,家族連れよりも,子どもを連れた奥さまたちが集まってくる場所といった雰囲気である。
子どもたちに人気があったのは,「Water Ways」という水とボールで戯れるコーナー。写真はちょうど人気がなくなった場面だが,ここにたくさんの子どもたちが集まる。水流を使ってボールを集めたり,跳ばしたり,水しぶきを浴びたりと,子どもたちが喜ぶ仕掛けがいっぱいである。
一応,簡単な防水エプロンみたいなものが用意されているので,それを着用して楽しむのだが,子どもたちは無茶苦茶するので,あっという間にずぶ濡れになる。それでもカリフォルニアっ子たちは気にしないのだ。
さすが子ども向けと銘打っているだけあり,4歳児以下の子どものこともちゃんと考えて,その子達が楽しむ領域も用意している。動機はどうあれ,この乳幼児や低年齢児への心配りというか,手厚さというところが,欧米諸国の教育施設づくりの根底にあって,いつも感心する。2階には低年齢児のための専用活動スペースが用意されていて,母子のたまり場になっているようだ。
(余談だが,ここに集まってくる母子の様子から,幼児を育てるお母さんたちの苦労や孤独といった問題は,日本だけのものではないことが垣間見える。特にアジア系のお母さんたちが座って子どもを眺めている様子を見ると,どこか子どもの面倒を見る日々に疲れているような面持ちがある。チルドレンズ・ディスカバリー・ミュージアムのような施設には,教育施設としての高尚な目的以外にも,お母さんたちが子どもを遊ばせる行き場や居場所としての側面もあるのだろう。)
2歳になった甥っ子もその恩恵を受けて,場内をあちこち動き回る。叔父ちゃん(私)の手を引っ張って「come on!」と誘ってくれるのは嬉しいのだけれど,「あっち」「こっち」と好奇心旺盛で,そろそろ戻ろうと促しても「no!」って言って,なかなかみんなのもとへ帰ろうとしない。君には負けたよ。
実は,ちょうど私が渡米する日。東大BEATセミナーが開催されて,そのテーマが「イマドキ・キッズの遊び場、学び場/どのようなチルドレンズミュージアムを創るか?」というものだった。それに参加してから,こういう場所に訪れたら,もう少し違う角度から見られたかも知れない。(そういう意味では来月のセミナーといい,なんでこうもチャンスが前後してしまうのか…悔しい)
それでも様々なアイデアを駆使して子どもたちに働きかけようとしたり,あるいは純粋に興味を持ってもらおうとする努力は,随所から感じ取れる。それは具現化されているのを見れば「なるほど」というものばかりだが,ゼロから発想して作るとなると,そう簡単ではないなと思う。
けれども,こうしたノウハウやセンスは,子どもたちに長時間接する教師にこそ共有して欲しいし,そうした活動に積極的に関わるような教師自身のライフスタイルというものを現実のものとすることが,日本に必要なのだと思う。美しいばっかりに見とれてないで,創造する喜びが得られる条件整備を期待したい。
さてと,ぼちぼちハワイへ移動する準備。いくつかの宿題も止まったままだから進めないと…。
スタンフォード大学 ((米国滞在記03))
スタンフォード大学に出かける。ウィークデーの大学に行くのは初めてなので,キャンパスにはたくさんの学生さんが行き交っているし,建物の中ではいくつものクラスが授業をしていて,まさに大学。
ところで,アメリカに来てからこんなお知らせを読んだので,早速申込をした。学習科学に接するには絶好の機会である。ぜひとも参加したい。
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【ご案内】公開研究会「BEAT ‘Special’ Seminar」
学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
– 高等教育の変革を事例として –
2006/11/11(土)開催!
主催:東京大学情報学環
ベネッセ先端教育技術学講座 (BEAT)
共催:東京大学大学総合教育研究センター
マイクロソフト先進教育寄附研究部門(MEET)
後援:NPO法人 Educe Technologies
参加登録はこちら!
http://www.beatiii.jp/seminar/
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11月のBEAT公開研究会は、学習科学の世界的研究者である
スタンフォード大学 Roy D. Pea先生、中京大学 三宅なほみ先生、
静岡大学 大島純先生という豪華ゲストをお迎えして、「学習科学
とICTは学びのあり方を変えるか」というテーマで’BEATSpecial
Seminar’としてお送りします。
(後略…詳細は続きにて)
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それで,「スタンフォード大学のRoy D. Pea先生」(→本人Webサイト)とあるし,せっかく近くまで来たので,Roy D. Pea先生が所属しているThe Stanford Center for Innovations in Learning (SCIL)を覗きに行くことにした。お馴染みの石造りの建物を入ると,内部は木材を活かしたシンプルミニマムな内装で先進性を表現している。iMacが入り口にポンと置いてあるので,自由に利用できるようになっている。
残念ながらRoy D. Pea先生の研究室を見つけ出す時間的余裕がなく,センターのパンフをもらうに留まった。それでもなかなか面白いプロジェクトを展開していることをあらためて知った次第である。
恒例のスタンフォード・ブックストアで長居。めぼしい文献はないものかと書棚の前で粘るが,教育関係で大したものは見つけられなかった。もしかしたら地下でテキスト販売してたかな。確認し忘れた…。まあ,帰国後にamazonで購入するものをチェックして,あとはお土産を購入する。
スタンフォード・ショッピングセンターにも訪れる。前来たときよりも広くなっている気がする。一通り眺めるが,GAPなんかを除いて,高級ブランド店が多く,あまり気軽に買い物できる場所ではなくなった感じ。そんなこんなで一日が過ぎていった。
明日は甥っ子の誕生日。サンノゼへ行く予定。
シリコンバレーは淡々と ((米国滞在記02))
こんなことなら国際運転免許をちゃんと申請してもらっておけばよかった。サンフランシスコ国際空港に降りたって,妹夫婦の家に泊めてもらってから数日経過。実はなかなか出かけられずに家にいたりする。
一人で行動するならいざ知らず,実家の家族と一緒なので,移動手段や体力や眠気など,活動する条件がなかなか整わない。車はあるのだから運転できるとまた違ったのだろうが…,それだけに国際免許無しは痛いな。
ところで,私がいま居るのは,人々が「シリコンバレー」と呼ぶ地域の真っ直中。地図的にそういう地名があるわけではない。サンフランシスコから離れて,サンノゼという東南方向にある街に向かったハイウェイ沿いの地域がシリコンバレーである。だからハイウェイを走っていると,有名な会社のロゴの入ったビルが見える。SunとかYahoo!とかNVIDIAとかIntelとか。
グーグル社はマウンテン・ビューという街に本社がある。どうやらユー・チューブを買収したらしい。グーグル・ビデオが不調だったから,当然予測し得たことだけれど,いやはや,検索を可能にするためならどこまでも貪欲になれる会社だ。少しでもまともなタグ付けシステムを作ってくれればと思うが,まだおおっぴらに紹介するのは不十分か。といっても,しばらく前のAERAの記事といい,日本のユー・チューブ・ユーザーは拡大の一途だけれど。
シリコンバレーはこここのところ快晴。気がつけば滞在日数も少なくなってきた。
歳をとった証し ((米国滞在記01))
歳をとった証しの一つか,9時間ものフライトを経て米国に着くことが,大した長さではないと感じる。搭乗,離陸,食事,映画,一睡,朝食,思索,書類記入など慌ただしくこなしていくと,気がつけば目的地の空港に着陸している始末である。地球は狭くなりました。
今回の旅は,米国に住む妹夫婦のもとに実家の家族で集うことと,ハワイで行なわれているE-Learnという国際学会に出席をして世界の研究動向を勉強することにある。いつかはそこで研究発表するためにも,まずは先達の姿を目に焼き付けないと…。それと,自分への退職祝いと合格祝いも気持ち的には兼ねている。
世界はすっかり狭くなり,金銭的なことを除けば,航空網の拠点間なら手軽に移動できるようになった。国によっては飛行機を降りてからの陸路の方が大変なのかも知れないが,とにかく私たちは世界のどこへでも行けるようになった。
校内研究会@府中
東京都府中市の小学校へ出かけた。校内研究として日常的なIT活用について実践研究している学校なのだが,研究助言のお仕事を賜ったので今春から定期的に訪問させていただいている。国政のお話も必要とはいえ息が詰まることばかり。やはり現場での取り組みに接して,真摯に課題を考えることの方が大事だと思う。
今回は3年生のクラスにおける道徳の授業。一口で道徳といっても,様々な切り口があるし,描かれるイメージもいろいろだと思う。今回は,子どもたちが幸せを感じる出来事やモノなどを持ち寄って,クラスみんなに向けて表現する活動が行なわれた。そんな授業の中で,ITは,映像を映し出すためのパソコンと液晶プロジェクタ。それを操作するプレゼン用リモコン。そして準備段階では,デジカメや写真編集ソフトなどとして活躍した。
IT活用という観点からすると,シンプルで地味な活用事例ではあったけれども,随所に思い入れが鏤められていて,授業者の先生の人柄も反映された楽しい授業だった。普段当たり前のように周りに居る友達の新たな側面を知ることを通して,わたしやあなたを見直すという心情を育む活動というわけである。
IT機器を教育実践で活用する。そのためにはIT機器をもっと気軽に使える程度に,整備したり,改良改善してもらったりする必要がある。そこで,どうしても財政レベルの話が絡み出して,その効果のほどを証明しなくちゃならなくなる。
ところが,そうなると問いかけ方が「IT機器を使用したことで,何が変わったんですか?」となってしまいがち。これでは,変わる点がないのに予算出せるものか,という選択肢に優勢である。
たとえ授業の中の10分間だけにIT機器が使用された程度の授業でも,そのたった10分間にIT機器を当たり前に使えるという教育環境が実現される意義に対して全面的に肯定する態度を取りたいのである。
「日常的なIT活用という課題に立ち向かう現場の先生方を励ませる研究成果が出せるといい」という気持ちで研究を進めている先生たちの努力は,地道に進んでいる。
3年生の子どもたちが紹介してくれた写真や思い出の品々は,とても微笑ましいものだった。私自身が教育実習生として入ったクラスも小学3年生。本当は授業を客観視するのが私の仕事なのだが,子どもたちの活動そのものに見入ってしまった時間だった。
東大・学力問題に関する全国調査
東京大学21世紀COE・基礎学力研究開発センターによって「学力問題に関する全国調査2006」が行なわれ,その最終結果が質問紙と共にWebサイトに掲載されていた。大変興味深い基礎調査になっている。
ちなみに日本教育新聞(10/2付)に東京大学・金子元久教授が解説記事を書いているので,併せて見ると分かりやすいと思う。質問紙と集計表を見るだけでもいろいろ見えてくる。
金子先生の解説をさらに勝手にかい摘んで紹介すると…。アンケートに回答したのは全国の小中学校の校長先生。校長先生たちは,子どもが以前より教えにくくなったと感じ,その背景として教員の質の低下とは考えておらず,むしろ家庭の教育力低下や問題が大きくなっていると考えている。教育改革についても早すぎて現場が追いついていないと感じ,教育問題が政治化されすぎているとも考えているようだ。将来については,子どもの学力格差が広がるという観測を持っている。以上,こんな感じである。
解説記事では,校長先生たちが答えたことによるバイアスがある点について留意しながらも,極めて高い比率でこのような傾向を示している事実についても考えるべきだと述べている。
実際の集計値解釈は多様なので,必ずしも上の如く端折ったようには数字を読まない立場もあると思う。それに,この調子だと学校や教員側に悪い点が何もないような印象も受けてしまうだろう。これは質問内容が学校教育の問題点をえぐり出すようなものではないことも関係している。
それから学力向上の取り組みの効果を質問する項目で,習熟度別学習指導について聞く部分がある。最近では習熟度別学習をネガティブに捉える論説・論考があり,一見効果がありそうでも,実のところ多様性の中での学びが阻害されるという問題点を指摘する。今回の調査で校長先生は,効果が「ある程度」以上あると考える人がほとんどだった。この結果は想定範囲内としても,そこから先の議論とどう接続するかまでは,この調査では届かない。
いずれにしても,こうした調査結果を踏まえた教育再生議論をすべきである。けれども,きっとそんな議論もなく民間委員の持論を闘わせて物事が運ばれていくのだろうなと予想できるのである。かくして,予想通りになったときの私たちのタメ息が「美しい国」を遠ざけるのだと思う。
神無月3日目
今日は千葉幕張のメディア教育開発センターで研究定例会。都内と千葉を接続するJR京葉線に揺られて移動すると,窓の外には東京ディズニーランド(TDL)。日常風景に紛れ込むシンデレラ城やタワー・オブ・テラーを眺める。思えば,愛地球博も私の生活圏内で開催されたっけ…。TDLにはまだ行ったことがない。
食堂のテレビには,安倍新総理が国会演説している姿。もはや,分かりやすい敵味方という括りは使えない。官邸主導の教育改革は,文部科学省のそれと切り離されて進む。夕方には官邸に設置される「教育再生会議」の委員の名前が明らかになってきた。今週末にも会議が始まるんだとか。
教育再生担当の山谷えり子首相補佐官に関する記事が,AERA今週(10/9)号に掲載されている。興味本位の過去掘り起こし記事なので,その内容自体をどうのこうのとは言えない。何にでも事情というものがある。けれども,きちんと説明しないと,ただでさえ世代間の疑心暗鬼があるなかで,また上の世代が勝ち逃げ的なことをしていると誤解される。
教育再生会議の委員は,みんな上の世代ばかりになりそう。また大人の悪い見本みたいなことを繰り返さないことを切に祈るしかない。
もう一つ気にしていることは,広報担当の世耕弘成首相補佐官がどんな形で教育再生議論において手腕を発揮するかである。ご存知の通り,教育に対する周知不足や理解不足からくる誤解などによって,教育問題はかなり歪んだ議論展開をして,悪循環を招いている。この状況を少しでも打開するためには,効果的な広報戦略をとる必要がある。
世耕氏は自民党における広報改革を推進してきた人物。その能力が官邸で活かされるとなったとき,それが私たちを欺く方向で発揮されるのか,あるいは私たちを深い理解に誘うように発揮されるのか。これは要注意である。仮に文部科学省vs首相官邸という構図になった場合,広報能力で勝負はついてしまうと思う。それだけ,私たちは情報操作の影響を受けやすいということだ。
この頃,政治の話題になると,そんなことが気になったりする。なるべく冷静な姿勢を保ちたいと思うし,どんな立場にせよ何かに取り組もうとする志は,真摯に評価すべきと思う。今後のためにも,つぶやきを記録していくとしよう。
○気になったWeb記事
・京田辺市教委主査ら逮捕/業者から現金40万円受け取る:20061002京都新聞
→yamachin.comブログから知る。業者との距離の取り方は慣れないと難しい。けれども,緊張感の失われた関係には,常に危うさが伴うものだ。その基本的なことを忘れたがために塀の中に落ちてしまったという悲しいニュース。私たちにとって,なにゆえ初心が大事なのかといえば,緊張感を取り戻すためでもある。
神無月2日目
気がつけば10月。週末は何もできなかった。週明けも完全復活には至らず五里霧中。でも明日から連日用件が入っているので,動けば調子も戻るかな。実はそのまま渡米するので,その準備もしなければ…。
というわけで,海外渡航の際には恒例の旅行駄文を今年も展開する予定。国際学会の出席もするので,その様子もご紹介する予定である。
プロジェクトで研究する
今日は委託研究プロジェクトの定例会。いつもは産学双方のメンバーで行なうが,今回は研究者チームのみで集まり,研究議論と成果発表の展望を共有した。あらためてプロジェクトで動くことの意義や実際を確認することができ,だいぶ見通す先が晴れてきた。もっとも,今日の天気はどしゃ降り…。
多くの研究世界がそうであるように,教育研究の世界にも,文系的研究スタイルの分野と理系的研究スタイルの分野がある。同じ研究対象にもかかわらず,この二つは研究成果の組み立て方や評価規準もだいぶ異なる。そして私といえば,この間を文系から理系へと越境しようとしている最中なのである。
細かい事実を端折れば,文系的研究スタイルは孤独な文献渉猟や主題思索の上に一本一本論文を書いて成果を出す。渉猟と思索を重ねるのが研究の核であるから,論文を書くにあたってそれらが足りないというのは困る。とはいえ,終わりはないのが渉猟と思索の旅である。上手く問題設定をして切りをつける必要があるというわけなのだが,これも下手に設定して問題を矮小化してしまう怖さと闘わねばならず,私のような大言壮語する人間にはなかなか難しい。
そしてまた細かい事実を端折れば,理系的研究スタイルは共同作業の計画的な設計と実行によって部分部分の考察を世に問い,最終的にそれら部分をもとに研究主題に関する一本の論文を書いて成果を出す。全体を部分に分けて計画的に実行するのが研究の核であるから,そのプロジェクトのマネジメントが不十分では困る。とはいえ,様々な課題や障壁,人的物的資源はマネジメントの知恵の輪である。上手く采配をふるって問題を切り分けたり,分担したりして,計画通り進行させる必要があるというわけなのだが,これも下手に采配をふるい全体構成が破綻してしまう怖さと闘わねばならず,私のような小心者にはなかなか難しい。
文系的スタイルの方を入口にした私にとって,理系的なスタイルは何がどうなっているのかよく見えなかった。頭で理解しているものと,表面的に見えているものが上手くリンクしないのだ。だから,業績の積み上げ方とか評価のされ方も実感として落ちてこなかった。まあ,自分にとって肝心の文系スタイルの方だって,十分にクリアできていなかったんだから,そりゃアンタの理解力不足の問題だと言われればそれまでだけどさ…。
それで最近になって,研究プロジェクトに加えてもらったおかげで,理系的な皆さんがどんな展望でプロジェクトやら研究を進めているのか,実感を伴って見え始めた。まさに「習うより慣れろ」である。
そして思ったのだが,独りでやっているより精神的に楽である。ああ,別に手が抜けるという意味ではないのだが,少なくとも終わらない旅をし続けるような途方もなさからは解放される気がしている。
ただ一方で,文系的な頭は「そんな割り切った問題設定でいいの?文句言う人いないの?」と老婆心を発揮する。システム開発の研究がシステムの普及推進までは問題としないことに違和感を覚えるのもその一つだ。
けれども,その問いへの応答は,分野の越境努力にこそ期待されるのだと思う。だから口ばっかりじゃなくて,自分で飛び込んでみることにしたのである。そしていまはそのための準備体操中である。
アクティブな皆さんと仕事をご一緒することで,自分自身も活性化されていくのが分かる。かつての職場でも,志ある仲間との仕事はこんな高揚感を味わえる数少ない機会だった。
けれども,プロジェクトを展開していくことは,上にも書いたように簡単ではない。プロジェクト内部と外部の温度差が原因で,プロジェクトで立てた目標が,組織内で非難されたり阻害されたりすることもある。そうなると目標達成は難しいし,何よりかけた努力がむなしくなる。意欲喪失,組織停滞,辞意転職。っと,これ以上は言うまい…。
プロジェクトを守るのは,プロジェクトマネージャーの力量や政治力にかかっているのかも知れない。でもそれだけでなく,プロジェクトの内と外をどうやって橋渡しするのかも考えていきたい。それはマネージャーでなくても意識すべきことだし,出来ることは何かあるかも知れない。
何かの縁があって,私はプロジェクトの内側で仕事が出来るようになったけれども,かつて外側にいた私自身に対して,いまの私は何が出来るのかを考えたいと思うのである。