月別アーカイブ: 2014年7月

憧れ漂えば

 6月は毎週のごとく東京または大阪へ出張していた。呼ばれたものもあるし,自分で出かけたものもある。どの出張も好んでいたものの,出張準備で日々が自転車操業の様になっていたのは辛かった。

 そんな慌ただしい日々があったせいで,このブログも3月から更新していなかった。幾度となく書こうとして,途中までの下書きがたくさん溜まっていたのだが,公開に至らずお蔵入りが続いたという次第である。この駄文もどうなるかは分かったものではない。

 国の事業に関わっていた副物産として始めることとなった歴史研究会が慌ただしくなり,しばらくはそれを軌道に乗せるための作業で頭も手もいっぱいといったところ。

 コツコツと作成してきた年表も、いろいろ公開手段を模索しながら提供を開始している。最初は珍しいから年表も魅力的に見えるかも知れないが,手に入れば見慣れてしまって急速に関心が薄れるのも想定内のこと。問題は,いかに人々の履歴を引き出して年表づくりに参加してもらうかであり,そのためにもニューズレターや研究会が大事かなと思う。

 そういう研究のプラットフォーム形成は,研究会を開くだけなら勢いでできないことはないけれど,次代に残していくつもりなら地道な作業を通して踏み固めながら続ける以外に王道はない。しかも,これから生み出す身軽な未来を相手にするのではない,酸いも甘いも溜まりに溜まった重たい過去と現在を扱うのだから,それ相応の覚悟が必要だと覚悟しなければ。

 そんな研究の傍らで,とあるアプリのことを考える日々が続いている。Share Anytimeである。

 私の好きなアプリにNote Anytimeというノートアプリがあって,仕事や出張時のメモやノートとして常用している。iPadがメインの場合は、Note Anytimeでアイデアや文章を考えて,適宜ほかのアプリと連携するという使い方である。また、作成した文書の校正作業もPDF化してNote Anytimeに読み込んで行なったりする。

 そのNoteAnytimeの姉妹アプリがShare Anytimeである。

 Note Anytimeはタブレット端末上での手書きノートという課題に本気で取り組んだアプリだったけれども,Share Anytimeはインターネットを介したコラボレーションノートという課題に取り組んでいるアプリだ。

 Note Anytimeを真っ先に小学校の出張授業で活用したことを事例として取り上げていただいたご縁で,MetaMoJi社に訪問したとき,このアプリのプロトタイプを見せていただいたことがあった。50人が同時に書き込む実験を行なった,あのデモ映像を見た時の衝撃は大きく,これを教育の分野で活用する可能性に思いを巡らせた。

 しかし一方で,コラボレーションアプリを教育学習に活かすことの難しさも感じていた。それに関してはりんラボのブログでも書いた。コラボレーションアプリには一定の利用価値があるけれども,よほど上手に場面設定しないと個に返る学習成果には結びつかないことも起こり得る。仕組みや現象としての協働活動自体には,それほど大きな意味はないからだ。

 そして,何よりこの手のアプリで一番難しいところは,利用環境の設定や整備である。

 コラボレーションするためのコラボレーションアプリというものが,そもそも個人を基本とする学習環境でどのように導入されるべきなのか,実際のところしっくり来ていないのである。

 フューチュースクール推進&学びのイノベーションの両事業において,校内ネットワークをベースとした授業支援システムやコラボレーションソフトを利用した授業というものを幾つも見てきたし,それはそれで成り立っているように思う。けれども,私にとっては,そこで協働作業された一切合切のデータがいまどのように保存されたり,再利用されたり,あるいは処分されているのかの方が数万倍重要な研究対象だと思っていて,もしそれが授業支援システムやコラボレーションソフトでなければ見られなかったとしたら,児童生徒はのちのち自分の学習にアクセスするのが大変だと思うのである。

 もちろん,協働学習で生成されたデータなど,学習が終われば(目標が達成されれば)見返すにも値しないものだと見なすのであれば,授業支援システムやコラボレーションソフトに閉じていようが,都合によって破棄されようが問題ではないのかも知れない。しかし,わざわざ入れたシステムやソフトによる結末がそれだとしたら,私にはそのことがよく分からない。だったらデジカメで撮影して残せばと言われたら,もっと分からない。

 だから,Share Anytimeのプロトタイプを見た時,これがNote Anytimeに装備される機能だと思って,可能性を見いだしたのだった。個人が日常的に使うノートアプリが,必要に応じて他者とのコラボレーションにも使え,その成果を自分のノートに残しておける。協働学習の成果を個人に返すことが出来る初めてのアプリが登場すると夢想したからだった。

 コラボレーションを実現するアプリに関する思索は,もう少し前からしていた。

 私が東京暮らしで2度目の大学院生をしていた時,後輩が大学の講義におけるバックチャネルとノートテイキングの学習への可能性について研究していた。ゼミで「協同ノートテイキング」に関して報告と議論をしていた時に,私なりに考えていたデジタルノートのコラボレーションの在り方を発言したことが,私の中で思索を深めるきっかけとなった。

 ちょうどその時期,小学校に出入りしていたので,学校の文書を既存のグループウェアで管理することの難しさについていろいろ考えを巡らせていて,アクセス権限というものを根本的に考え直す必要があるのではないかと思っていた。協同ノートテイキングも,自分の書いたノートを相手とどのように共有するのかという点にアクセス権の考え方の再考が必要だと思ったのだった。

 その時に思い描いたのが,普段は自分のノートなのだけれども,自分のノートの好きな部分を外部に対してオープンにできて,お互いが相手のノートの許された部分を覗き合えて,それを引っ張ってくることも出来るというものだった。あるいは逆に,基本は外部にオープンなノートであり,指定した部分をプライベートにできるという使い方もできるもの。そうすれば,同じ講義を受けているもの同士でノートを共有でき,後輩の研究の文脈でいうバックチャネルも活性化するのではないかと考えていた。

 しかし,それを実現するには技術的な課題も多く,無い物ねだりといった認識で立ち止まっていた。少なくとも,あのプロトタイプを見るまでは。

 遠くない将来に製品化するという言葉を社長さんから聞き,私はのんびり待った。待つのは得意だ。しかし実際には,それほど待つこともなかった。

 やがて登場したのは,コラボレーション機能付きNote Anytimeではなくて,Share Anytimeだった。正直なことを書けば,困惑というか,「う〜ん」という気持ちが先に立った。独立したアプリになるとは思わなかったから。

 いろいろ触らせていただいて,Share AnytimeをNote Anytimeの代替アプリに使えないかと試したりもしていた。けれど最初のバージョンは大好きな万年筆のペン先選択が無い…。代替アプリとしてはまだ成熟を待たねばならなかった。うん,待つのは得意だ。

 何でもかんでも一つに詰め込むのはよくないという考え方も正解だろうし,2つのアプリが連携すればよいだけのことだし,ビジネス的なこともあるだろうから,新しい妹アプリの誕生を素直に喜ぶことにした。

 とにかく,多人数の書き込みがリアルタイムに反映されるシステムというのはインパクトが強かった。それ以上に,場所と時間を超えて情報の差分を届けることができることに感銘を受けた。

 授業で多人数が書き込めればそれで学習が成り立つわけではないが,このアプリの可能性を生かす場面がどこかにあるんじゃないかとも思い,それ以来,あれこれ考え続けているというわけである。

 先日(7/7)にNote AnytimeとShare Anytimeの新バージョンが登場した。

 Share Anytimeはシェアノートの書き込み権限の考え方を一新した。旧版は,フリー会議と限定会議という種類を用意して,シェアノート作成者が種類に応じて権限を設定する方法をとっていて,分かりやすいとは言えなかった。

 新しい方式は,種類を撤廃して,作成者が権限を設定するシンプルな形に変化した。これは重要な改善の一歩だと思う。あとは作成者が権限を設定する方法をどれだけ現実的な状況にあわせて簡便にできるか解決するだけだから。

 それでもShare Anytimeを実際に活用しようとするには「ハードル越え」の必要性が残っている。いざ利用すると決めて環境を整備するような導入方法なら問題はないが,そのための環境を用意するわけでもない私のような教員が授業で軽く使い始めるには超えなければならないハードルがいくつもある。

 これはShare Anytimeに限った話ではない。ほとんどのコラボレーションアプリがこれに失敗しているのである。だからほとんどのコラボレーションアプリは会社やビジネス利用のような大掛かりな事例しかなく,個人が気軽に使っていますという事例を聞かないのだ。

 Share Anytimeは確かに目新しいコラボレーションシステムを売り物にしているけれど,私にとってShare Anytimeの生命線はNote Anytimeの姉妹アプリであるということに他ならない。個人に返るコラボレーションは,個人のノートに返せるシェアノートとの連携なしには実現しないからである。

 この利点は,他のアプリやソフトにはない。だからずっとShare Anytimeの事を考えている。