東京大学21世紀COE・基礎学力研究開発センターによって「学力問題に関する全国調査2006」が行なわれ,その最終結果が質問紙と共にWebサイトに掲載されていた。大変興味深い基礎調査になっている。
ちなみに日本教育新聞(10/2付)に東京大学・金子元久教授が解説記事を書いているので,併せて見ると分かりやすいと思う。質問紙と集計表を見るだけでもいろいろ見えてくる。
金子先生の解説をさらに勝手にかい摘んで紹介すると…。アンケートに回答したのは全国の小中学校の校長先生。校長先生たちは,子どもが以前より教えにくくなったと感じ,その背景として教員の質の低下とは考えておらず,むしろ家庭の教育力低下や問題が大きくなっていると考えている。教育改革についても早すぎて現場が追いついていないと感じ,教育問題が政治化されすぎているとも考えているようだ。将来については,子どもの学力格差が広がるという観測を持っている。以上,こんな感じである。
解説記事では,校長先生たちが答えたことによるバイアスがある点について留意しながらも,極めて高い比率でこのような傾向を示している事実についても考えるべきだと述べている。
実際の集計値解釈は多様なので,必ずしも上の如く端折ったようには数字を読まない立場もあると思う。それに,この調子だと学校や教員側に悪い点が何もないような印象も受けてしまうだろう。これは質問内容が学校教育の問題点をえぐり出すようなものではないことも関係している。
それから学力向上の取り組みの効果を質問する項目で,習熟度別学習指導について聞く部分がある。最近では習熟度別学習をネガティブに捉える論説・論考があり,一見効果がありそうでも,実のところ多様性の中での学びが阻害されるという問題点を指摘する。今回の調査で校長先生は,効果が「ある程度」以上あると考える人がほとんどだった。この結果は想定範囲内としても,そこから先の議論とどう接続するかまでは,この調査では届かない。
いずれにしても,こうした調査結果を踏まえた教育再生議論をすべきである。けれども,きっとそんな議論もなく民間委員の持論を闘わせて物事が運ばれていくのだろうなと予想できるのである。かくして,予想通りになったときの私たちのタメ息が「美しい国」を遠ざけるのだと思う。