シリーズ・研究を志す日」カテゴリーアーカイブ

【番外】辺境を歩きながら

 自分の蔵書を眺めると,その系統性の無さに呆れる。普通,自分の師匠が継いでいる学派とか学説とかの影響を受けるものなのだとは思うが,若き日についた師匠達はみんな独創家で,そういう先生達を追いかけるには闇雲に勉強するしかなかった。私自身の元来の無節操さも加わって,理系とも文系ともつかない辺境を歩んでいる。

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【教師が研究を志す日】02

 私は研究に対して「見える世界を見る研究」と「見えない世界を見る研究」という大きな括りを持っています。前回は,前者を実践研究,後者を学術研究に対応させて表現しました。

 この場合の,見える見えないの差異に,明確な定義があるわけではないのですが,行動や現象として可視的なものを「見える」と考えて,背後にある概念や原理のような隠れたものを「見えない」と位置付けることを基点としたいと思います。

 ただし,このことによって両者に明確な違いが生じます。それぞれの世界を見るための「言葉」がどうしても異なってくるのです。異なる程度は場合場面によって様々なので,容易に相互理解できる場合もあれば,かなり翻訳をしなければならない場合もあり得ます。

 そして,実践研究と学術研究の決定的な違いは,研究成果の積み上げられる「場所」に他なりません。そのことも,両者の言葉の違いを必然としているのです。

 研究が積み上げられる場所とは,どこのことなのか。

 実践研究は,実践の現場(学校など)に研究成果が積まれていくと考えられます。

 一方,学術研究は,学術の現場(学会など)に研究成果が積み上げられていくのです。

 それぞれの現場には,それぞれ積み上げられてきた「歴史」があり,それが両者の違いの大きな部分を占めているといっても過言ではありません。

 研究は,必ずしも実践研究と学術研究との二つに分けられるわけではありません。立場や考え方によって分け方には様々あることでしょう。

 しかし,「言葉」「(成果の返される)場所」「(その場所の)歴史」といったものが,研究の性格を大きく決定づけていることは間違いありません。

 そして,ある日現場で普段の実践研究(授業研究など)とは違う研究を志すということは,それはいつもと違う「言葉」で,いつもと違う「場所」に向けられた,長く積み上げられてきた「歴史」に基づいて行なう研究の世界と関わり始めようとすることでもあります。

 そのことは,見知らぬ異国で滞在することにも似ています。私たちが異国で滞在する仕方も,単に旅路の通過点として触れるのか,ツアーの旅行者として見て回るのか,短期留学をするため訪れるのか,長期間に渡ってその国で生活するのか,あるいは骨を埋めるのか,様々です。

 次回は,旅先の振る舞い方をモチーフとして,研究世界への触れ方を考えたいと思います。

【tips】かんたん!アンケート作成

 何かを研究するという場合に,現状を把握することはとても重要な出発点になります。現状を把握する調査結果自体が研究成果になることもありますが,普通は,何か別の目的や問題をやっつけるための足がかりにすることが多いでしょう。

 課題にも拠りますが,アンケートを行なうというのはごく自然な発想だし,現状を把握するベーシックな方法の一つです。社会調査と呼んで,そのための資格(社会調査士)もあります。

 アンケート調査をする場合にも,具体的な方法はいろいろあります。印刷したアンケート用紙(質問紙)を郵送して回答を返してもらうのか,持参して回答者を捕まえて質問するのか,あるいは電話をかけて質問するといった方法もあります。

 「Webページ上に質問を用意して,ネット経由で回答してもらえないかな?」

 パソコンを使わなければならない条件が,アンケート調査自体に与える影響を事前に考慮して問題が無いのであれば,インターネットを活用したアンケート調査は魅力的な方法です。

 以前は,ホームページの作り方やCGIの処理の方法など,面倒な知識を知らなければならない時期もありました。しかし,今日では,かなり手軽にWebでアンケート調査を実施できるようになっています。

 1) ネット調査サービスを利用して,調査結果を受けとる
 2) 自分で回答者を集めて,アンケート回答システムを利用して,回答してもらう

 1)は調査会社を利用する方法です。調査会社がインターネットを使うというだけで,従来の調査会社への委託と変わりありません。ただし,インターネットを使った時間短縮が可能なので,大規模調査を短時間で実施できるメリットがあります。

 2)は自分で調査する方法です。質問回答などの手続きをインターネット上で行なえるため,実施コストを抑えることが出来ます。ただし,対象者集めなどの苦労は従来通りです。

 1)であれば,日経リサーチマクロミルYahoo!リサーチといった会社やサービスがあります。

 2)で利用できる無料のシステムとしては,「質問くん」や旧NIMEが提供しているREASがあります。

 でも,もっと簡単なのは,Googleドキュメントのサービスを使うことです。すでにGoogleのアカウントを持っているなら,こちらは本当に手軽です。

 Googleドキュメント自体は,ネット上で使えるワープロや表計算,プレゼンテーションソフトのセットです。この中の表計算(スプレッドシート)の機能には「フォーム」というものをつくる機能も付いているのです。

 この「フォーム」を使えばアンケート画面をつくれます。(画面例

 画面例を見ていただけば分かるように,なかなかシンプルにつくれます。質問数の多いアンケートや分岐が複雑になるようなアンケートには向きませんが,簡単な質問紙であれば,これで十分です。

 質問画面の作成はWebの画面を見ながらつくることができ,結果はスプレッドシートに追加されていきますので,必要があればデータをエクセルファイルとしてダウンロードして処理することも可能です。

 結果を円グラフや棒グラフで表示させることも出来るので,授業中のレスポンスアナライザとしても使えます。REASと同じように,授業の評価システムとして利用することも出来るでしょう。

 アンケート調査は,方法自体がシンプルなだけに調査項目の設計と集計解釈などが要になります。そのため安易なアンケート調査は逆に批判に晒されやすいのも確かです。

 ただ,考えてみると,アンケート調査スキルも経験を積み重ねなければ向上しません。むしろ,失敗や成功を繰り返して調査のコツを感得していくことが大事で,それが調査リテラシーの向上にもつながるかも知れません。

 インターネットのつながる環境があるならば,日常的にアンケート調査をしてみるのも面白い試みかも知れません。そのような日々の中で,アンケート調査に矛盾や不信を感じ始めた時,それが調査リテラシーに関するチャンス指導のタイミングとも言えそうです。

 また,現場の教師が研究を志すにあたって,自分自身の調査スキルを高めておくにも,こうしたツールに使い慣れて,単なるアンケート調査に終わらない,その先の調査に繋げていく目を養うことが必要かも知れません。

【教師が研究を志す日】01

 現場教師にとって,「研究」という言葉は2つの響きを感じさせます。一つは,どうにも手間ばかりかかって,あまり実効性のない試み。もう一つは,もしかしたら自分の努力を後付け更なる前進をもたらす企て。

 毎日の実践に追われて過ごす日々の中で,ある日,自分の実践を振り返る機会が与えられたりします。それはふとした自分の気付きによるものかも知れませんし,あるいは,教育委員会からのお達しによる研修としてかも知れません。とにかく,その日は突然やってきます。普段の実践研究とは違う,学術研究と向かい合う日が訪れるのです。

 ここでいう実践研究とは何でしょうか。一つ参考になるものとして,群馬県教育研究所連盟(2001)が掲げる「学校における実践的研究」があります。その特質とは:

○子供の変容や成長にかかわる研究である
○実践と理論を結び付けた研究である
○教育実践の質を高め,その方向付けを行う研究である
○研究の深まりとともに新しいことに気付き,修正を加えながら進めるというように可変性,柔軟性のある研究である

となっています(15頁)。

 そして,いくつかの研究方法の中から,これらを満たすものとして「授業研究」「教材開発研究」「事例研究」「調査研究」の4つを「実践的研究」と捉えるのです。

 ちなみに,特質を一部満たさなかったのは「理論的研究」と「実験的研究」でした。だからといって,この2つが学術研究なのだという風に分けられるわけではありません。

 
 何を実践研究と考え,何を学術研究と考えるかは,立場によって異なるでしょう。私は「見える世界を見ようとするのが実践研究」であり,「見えない世界を見ようとするのが学術研究」だと表現しておきたいと思います。

 なぜそのように表現するのか。上記の特質も引き合いに出しながら,次回以降,考えていくことにしましょう。

群馬県教育研究所連盟(2001)『改訂新版 実践的研究のすすめ方』東洋館出版社2001.2

【教師が研究を志す日】00

 今回から,現場教師の皆さんが研究を志すことになる際に知っておきたいこと,考えておきたいことを書いてみようと思います。長期シリーズとして続けていきますので,どうぞよろしくお願いします。

 私は長らく,このようなテーマで駄文書きすることを躊躇っていました。実際には,学問や研究について沢山述べてきたにもかかわらずです。

 理由は簡単。私にその資格や力量があるとは思えなかったからです。

 実際に,現場教師として研究に携わっている先達がいらっしゃるし,大御所の研究者となって活躍している方々もいらっしゃる。私よりも現場教師と密接に関わっている研究者先輩もいらっしゃる。その方々を差し置いて,私が研究の何たるかを書くことは,以前の私には出来ませんでした。

 しかしここ数年,自分なりの問題意識で分野を越えた領域を学び直してきて,見えてきたこと,逆に見えなくなりそうな事柄が分かってきました。

 もちろん,研究というもののすべてを知ったわけではなく,どこまでも私の偏った見方なのでしょう。それでも,いまなら先達とは違うことが書けて,自由に刃も向けられるだろう(半分冗談)。ご恩を返すとするならば,ズレたところの考える素材を提供することだろうと思ったわけです(論文書けってのは別にするとして…)。

 現場の教師は,たくさんの研究活動をしています。授業研究,教材研究などの実践研究です。そして今日では,専門性を高めるために学術研究との連携が重視されています。

 教員養成系の大学院,教職大学院はもとより,研究者を伴った民間の自主研究活動といった場が増え,現場の教師にとって「研究」という行為がどんどん高度化しているのです。

 実践研究と学術研究では,似ている部分もありますが,異なっている部分もたくさんあります。そのため,実践研究から学術研究へ手を出し始めたときに,あるところまではついていけるけれど,あるところから急に苦しくなる事態に直面します。

 苦しみながら進んで慣れていくのも一つの手ですが,根底にある考え方の違いを理解すると,もっと可能性が開けていくはずです。現場で活躍している教師の皆さんが,根底にある考え方の違いを理解すれば,それを土台に,職業研究者よりも素晴らしい教育研究を展開することが出来ると信じます。

 最終的に,私が如何に役立たずの教育研究者なのかが浮き彫りになり,お読みになった現場の先生方が研究を志す敷居を下げることが出来たなら,試みは成功です。

 さあ,それでは拙いシリーズを始めることにしましょう。