次の学習指導要領の方向性を示すものとなる中教審・初等中等教育分科会 教育課程部会審議報告書(PDF)が13日に出された。あちこちで話題されているように今度の指導要領の基本的考え方は:
1. 言葉や体験などの学習や生活の基盤づくりの重視
2. 確かな学力の育成
3. 子どもの社会的自立の推進
4. 社会の変化への対応
とされた。このうち「言葉」がクローズアップされているが,たぶん国際学力調査における読解力の結果や小学校英語などといったトピックスも多いからだろう。報告書の「終わりに」の表現に沿えば,今回の見直しの重要点は「学習と生活の基盤」の必要性である。授業時数の増加の問題もその一つであろう。
さらに幼児教育段階の無償化についても議論が進められているらしい。義務化という議論もあったそうだが,コストの問題も大きく,現行制度の中で無償化ができないかを模索するようだ。
「教育」カテゴリーアーカイブ
PC利用と数学成績の相関
取り急ぎ,発見したWeb記事をご紹介。MYCOM PC WEB記事「PCの利用頻度と数学の成績に相関ありとの報告 – OECD調査」は,OECD PISA2003調査のさらなる分析結果を紹介している。
記事によるとパソコンの利用頻度や時間が多い国の子ども達ほど,数学の成績がよいという傾向が見られるらしい。そして,いつものように日本の位置なのだが,パソコン利用の調査で最下位レベル(あちゃ〜)。
しかし,ちょっと待って。
PISA2003の調査結果が報告されたとき,日本版の報告書『生きるための知識と技能』では,「学習の背景」の部分で「ICTの利用」に関して分析が記載されていた。それを読むと,パソコンの利用と数学的リテラシーの成績は,直接関係しないか,「負」の相関があるかも知れないと書いてあるのである。これはどういうことだろう。
またオリジナル文書を探して見てみないといけないが,その後の分析によって覆されたということなのかも知れないし,あるいは日本版報告書とオリジナルとでは分析の着目点が異なったのかも知れない。
情報機器・教材の利用部分では日本版報告書でもいくつかの国の結果をさして「正」の相関があることは指摘されているので,おそらくその部分と関連があると思うのだけど,これは宿題。
しかしパソコン利用の調査に関するグラフがWeb記事に掲載されているのだが,このグラフのデザインが興味深い。プロットしたデータがらせんを描くようになっている。もっともその中心に近い方の終点に日本が位置しているのが残念だけど。
英語教材の最新動向を覗く
土曜日に東京に出かけてきた。東京大学のBEATセミナーに出席するためである。スケジュールが合うようになったので,連続参加している。いろんな勉強と出会いができるので嬉しい。感謝感謝。
詳しい報告や私の考えは,このあと本家でたっぷり書くことをお約束して,とにかく興味深いセミナーであったことを記しておこう。また,何度か参加を繰り返して,少しずつ教育工学研究の先端が何を意識しながら取り組んでいるのか,見えかけてきた。主にコンピュータやインターネットを使った教材の開発における課題と英語教育という領域における課題の合わさり方を考えていくと,そもそも「英語ができるとは何なのか」という問いにも至るし,それは次回のセミナーのテーマでもある「評価」の問題にも深く関わる。
懇親会では,「企業/教育工学/教育学」という3つの立場を措定して,互いのサイクルの違いや温度差といったものに話を展開してみた。それぞれの場に所属している方々の話に納得したり,酔いに任せて熱く語ってみたり。調子に乗って,当日帰れなくなった。ははは。
一泊して,東京の街をふらついてみる。といっても宿題もあるので,いくつかのお店や本屋を訪れて名古屋に向かった。いよいよお休みも残り一日。いろいろ準備しないと。
義務教育費と税源移譲問題
11月30日の政府・与党協議会で,問題となっていた義務教育費国庫負担の削減及び税源移譲について結論が出た。結果としては国庫負担率を現行の二分の一から三分の一に変更することによって削減を行ない,かつ中教審答申に示された「国庫負担制度の堅持」にも(とりあえず)沿った形で決着を付けた。
地方六団体代表の意見としては,国庫負担による国の影響力が残る点について不満を表わしている。一方で,国庫負担制度の堅持を支持していた側にしてみれば,制度堅持は果たせたとはいえ小中学校全体で国からの教職員給与費の保障が減ることになる点で不本意な結果となった。日教組は即座に反応して抗議した。
これによって国庫負担が減った分の8500億円を地方が保障する必要が出てきたわけだが,懸念が現実化するのか,それともなるようになるのか‥‥。
関連Webリンク:文部科学大臣談話11/30,
東京大学・学校教育高度化専攻設置
今年初頭から話題(エントリー「東京大学・初中等教育高度化推進機構構想」)にしていた東京大学の教育高度化推進構想が具体的な形になって発表された。東京大学大学院教育学研究科学校教育高等化専攻と学校教育高度化センターの設置である(→東京大学の該当ページ)。
教職大学院の動向と平行して,様々な取り組みが展開している。東京都杉並区は「杉並師範塾」という独自の教師教育の取り組みを始めようと準備している。それぞれの形でプロフェッショナルを育成しようとしている。
東京大学大学院教育学研究科の学校教育高度化専攻は「教職開発コース」「教育内容開発コース」「学校開発政策コース」で構成されており,高い専門性を持った現場教師を志望する人々だけでなく,教育行政にかかわる行政官,今後専門職大学院に関わる実践的研究者などを目指す人々が学ぶことを想定しているようだ。
すでに概要資料や募集要項も公開されている。学校教育高度化センターも含めて,動向を追うことにしよう。
闘う行政官たち
いま,ブログ「義務教育費国庫負担金について」が熱い。
文科省の行政官の人々によるダイレクトな情報発信だ。
この機会に「行政」というものにしっかりふれてみる
ことも大事だろう。他にも元外務官僚の田中均氏による
著作など,政治や行政を知るのに絶好の機会かも知れない。
100ドル・ラップトップは衝撃となるか
世界情報社会サミットというのがタンザニアで行なわれているのだが,そこで国連のアナン事務総長とマサチューセッツ工科大学(MIT)のMedia Labのネグロポンテ理事長が「100ドル・ラップトップ」を披露した。
PC構成部材の低価格化のおかげで,100ドル・パソコンやノートパソコンの実現が注目されてきたが,今回実物が披露されたのはMIT Media Labのネグロポンテ氏が率いるOne Laptop per Child (OLPC)という組織が世界の子ども達にラップトップをもたらそうとする取り組みのものである。
まずは,これまで十分な教育を受ける機会を持たない国の子ども達にも届けるため,いくつかの国の政府を相手に交渉を始めているようだ。発表の席には途中から,同じく子ども達のためのラップトップ構想である「ダイナブック」を考えたアラン・ケイも登壇して,各国の取材陣からの質問に答えていた。(その映像はオンデマンドで見ることができる。)
これは日本の情報教育においても衝撃になるだろうか。いよいよ世界を射程とした発信型の教育を見通していかなければならなくなってきたともいえる。時間がかかる取り組みだけに,いま始めなくては。
初等中等教育局メールマガジン
教育の話題をかなりすっぽかしたまま展開している教育らくがきだが,大事な動きがあったのだから,そろそろまとめてとりあげて置かなければならないだろう。もっともこれも出張先で片手間に書いているので,相変わらず落ち着きないままだけど。
文部科学省から「初等中等教育局メールマガジン」が発行されるようになったことは,ほとんどの皆さんにとっては旧聞にあたるのかも知れない。こんな話題すらタイムリーに取り上げられなかったことが悔しいが,とにかく,これが結構面白いのである。
しばらく前から文部科学省がWebサイト上でマスコミ報道への反論や誤解の指摘を始めた。これは情報が行き交うインターネットの時代において,大事な取り組みだと評価し得る。それがよりパワーアップして,メールマガジンでは先日の中教審答申に関する各新聞社の報道を比較して,コメントを加えているのである(初中教育ニュース臨時増刊号11/2)。
文部省時代には寺脇氏のようなスター(?)官僚がマスコミに登場していろんな議論に応えていたわけだが,メールマガジンという形で省庁の現場から発信されるというのは,また違った説得力というか,リアリティのようなものを感じてしまう。
ポッドキャスティング時代
教育らくがき・試験Podcasting(3.4MB)
連日,ポッドキャスティング(Podcasting)に関するニュースが飛び込んでくる。ポッドキャスティング関連の情報発信をしている「Podcast Now!」を眺めていると,ポッドキャスティングの教育利用に関する情報が賑やかだ。東大のTREEプロジェクトの記事にもポッドキャスティングの動向が取り上げられている。
とりあえず,この手のテクノロジーを採用しやすい高等教育における試みが先陣を切っているが,生涯教育にも生かせることは言うまでもないから,今後続々とポッドキャスティングを利用した学習教材が出てくるだろう。特に団塊の世代が引退を迎える時代において,自己実現のための生涯学習分野は消費市場としても有望視されている。ポッドキャスティングは,必ずしもiPodを利用する必要はないので,使いやすい機器やソフトウェアなどが今後も登場すれば,確実にポピュラーな教育ツールとなるだろう。
ビデオPodcastと新iMac
本日の「視聴覚教育メディア論」の講義で,テレビとビデオの歴史を語った。最新動向として,先日発売されたばかりの動画再生機能付きiPodの紹介を熱っぽく語ったら,学生から「なんだか,話し方でアップルが大好きな印象を受けたのですが」と鋭いコメント。バレバレでした。
先日発表された新iPodと新iMac。教育らくがきのアップル好きはすでに周知の事実だが,それにしたって今回の新製品がモバイル・ラーニング分野に与える影響は大きいと思う。米国では,人気テレビドラマを過去のものはもちろん最新放映分も放送後翌日に購入できるといったサプライズ発表もあった。
しかし,何よりもPodcastの世界に「ビデオPodcast」が加わるということが,一番のニュースである。つまり,自分で短いビデオクリップを制作して,ブログに定期的にアップすれば,それは個人ビデオ放送局になるということだ。
このビデオPodcastの可能性は,従来のPodcast(ここではラジオPodcastとしよう)よりも広い。これまでのラジオPodcastは音声のみである点で,ある意味個人制作が難しい代物だった。え?音声だけだから楽なのではないか?とお思いかも知れないが,実は表現手段が制限されている分だけ,センスや技能が必要なのだ。簡単だと思う人たちや現在制作している人たちは,そういうセンスや素養を持っている人たちというだけである。
逆にビデオPodcastになると,ずいぶんと敷居が低くなる。というのも,ビデオカメラの普及と活用のされ方を考えると,結構な素材がすでにあちこちで眠っている可能性があるからだ。アップルが用意していたiMovieというソフトは,そうした眠っているビデオ素材を掘り起こすソフトであった。そしてこれまではDVDに焼いて楽しもうというアプローチだったのである。しかし,ようやく新たな楽しみ方として動画対応iPodが登場した。