長い時間をかけて地球の裏側に出かけた米国フロリダ州での学校視察も,無事日本に帰国したことで幕を閉じた。これから視察の内容を見直して,報告書をまとめる作業に移る。視察時間は短かったし,プライバシーの観点から記録制限されたが,おおよそのストーリーを組み立てるのに必要な情報は得られたように思う。追加質問はメールでお願いすることにしよう。
今回の視察はThinking Mapsというビジュアル・ティーチング・ツールを活用している学校を対象としたものだった。その目的は,思考力育成の取り組みを概観するためである。実際,思考力向上の成果として社会科と作文の成績が目に見えて上がっているという。そして,痛感したことは,米国と日本の「道具観」の違いだった。
Thinking Mapsというプログラムには様々なノウハウが盛り込まれてはいるが,それを使っている現場自体は一つの効果あるツール(道具)として割り切って使い倒しているだけ。もちろん必要なければ使わない。かなり単純に見れば,それだけなのだ。その割り切り方のなんと「あっさり」したことか。かつ,とても効果のあるツールとして信頼を寄せている。
日本だとこうはいかない。何か道具を使うと「楽をした」という印象が先に立ってしまう。道具としての「手軽さ」の重要性は「短小軽薄」を得意とするものづくり大国・日本なのだから理解しているはずだが,こと教育界では「苦労なくして成果なし」みたいなスポ根観が支配しており,道具の活用が不自然なくらい下手なのだ。
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学校視察
アメリカ・フロリダ州のオーランドにて学校視察。訪れたのはShenandoah Elementary Schoolという小学校。校長先生のJanice Weemsは突然コンタクトをとってきた男二人を快く歓迎してくれた。「どうしてこの学校を視察することになったの?」と聞かれて,私はたどたどしい英語で「インターネットを検索したら出てきたんです」と答え,視察の始まりとなった。
詳細はまた後日書きまとめたいが,Thinking Mapというツールを教育現場の至る所に活用して,社会科やリーディングの成績が上昇したという成果を上げている学校だ。ツール自体の概要はWebサイトでも紹介されているのだが,実際の学校現場でどのように活用されているのかを知るために視察となったわけである。
学校見学は,午前中に終わった。もう少しかかるかと思ったが,実際の導入も活用も意外とシンプルだったこともある。もう少し細かいところも突っ込んで調べられないか,あれこれ思案もしてみているが,いまのところ大まかな実践が見られたところでそれ以上のものを引き出すには場面を変える必要がありそうだった。
それに実は,プライバシーやコピーライツの問題もあって,少々材料集めに難儀したこともある。調査の方法もいろいろ考えなければならないなぁ。
校内LANを無償でいかが【パート2】
9月に締め切られた情報化推進協議会による「校内LAN整備加速パッケージ」の選定結果が発表されていた。確か全部で50校募集だったのに掲載されているのは14校だけである。条件を検討した上で選定されたためだとしても,これは少ない。応募が少なかったとしか考えようがない。
というわけで,皆さん!第二次募集が10月中旬から予定されているそうですよ!前回の告知を知らなかったあなた,応募準備期間が短すぎて応募できなかったあなた!再度チャンスです。
おそらく条件は前回の駄文に書いたものと同じだと思われる。学校内の意志決定だけでなく,教育委員会との調整合意の上でないと応募資格を得られないので,希望される方は今から学校長を説得し,教育委員会との接触を図ることをおすすめする。さらにこのパッケージの応募は,自らの学校の取り組みを全国に対して公開することも含んでいるので,その辺に対する関係者の理解を得ることも必要だろう。
だとしても,こんな確率の良いクジはない。「よし,騙されたと思ってちょっとやってみるか」とふっとやる気になることが,大きく物事を変えるのである。興味のある皆さんは,募集がかかるのを注意深く待っていただきたい。
そして,宣伝下手な情報化推進協議会の代わりに募集の告知をしてあげて欲しい。ライバルを増やすのは気が引けるかも知れないし,義理もないとお思いかも知れないが,もしかしたら日本に残された唯一の希望は,未来をおもんぱかって渋々ながらも融通を利かす,義理人情くらいしかないかも知れないのだし‥‥(ホントだとしたら寂しいけどねぇ)。
校内LANを無償でいかが
教育の情報化が国の方針として進められているのだが,計画の目処である2005年度末(2006年3月)が近いにも関わらず,学校内のLAN整備が遅れている。ぼちぼち駆け込み整備をしているところも増えているのかもしれないが,すべての学校に整備するという目標からすれば,推進関係者の焦りは大きい。
教育情報化推進協議会のページでは,選定された50校に校内LANを無償で整備する「校内LAN整備加速化パッケージ」を計画し,8月末から学校募集をしていた。ところが応募締め切りは9月23日で,連休明けて数日しかない。たぶん各学校に募集書類は送付されたのだと思うが,知らない学校があったとしたら残念である。
提供されるのはルータ,無線LANのアクセスポイントと端末用カード(20〜50枚),50台分接続ライセンス付きWindows2003 Serverが入ったサーバマシン,サーバ設定ツール,作業支援費10万円だそうだ。無償である代わりに導入事例として紹介されるモデル校になるのが条件。その他にも応募の条件がある。
いずれにしても国による助成措置は今年度末まで。昨年度のうちに予算措置をしていなかったところが急に目覚めて対応するかどうか苦しいところであるが,来年度以降の助成は設備ではなくコンテンツへと移行するため,校内LAN整備に関しては今のうちになんとかした方が良いだろう。
まあ,有線ではなく無線LANでネットワークを構築するというならば,助成を見逃しても導入出費はある程度抑えられるのかもしれないが,学校教員の職場環境の改善を真剣に考えるなら,有線だろうが無線だろうが今年度中に整備していただきたいものである。それから教員一人ひとりにパソコンの配布もね。
教育コンセンサスへの努力
日本の教育に対する日本人自身のコンセンサスが大きく欠けている。この欠如によって,教育改革は迷走状態を続けているし,学校現場は落ち着かないし,教師は振り回されているし,保護者は不信感を募らせ続けている。
たとえば書店には,藤田英典氏による『義務教育を問いなおす』(ちくま新書2005/900円+税)が出回っているが,この意気込みを詰め込んだ分厚い新書が,どれだけの当事者の手に届けられたのだろう。恥ずかしながら,私も中身を読み込めていない。いやしかし,藤田氏は同様な主張を8年前と5年前にも充実した内容で上梓している。ところが,日本の教育議論がそれらをベースに進展してきたなんて話は露とも聞いたことがない。
日本で賑やかなのは,今夜も「NEWS23」で特集されていたが,北欧のどこぞの国の教育がどうだこうだの土産話。『ヨミウリウィークリー』9/25号は,特集「「学力低下」の真犯人」で,保護者世代が学校教育を受けた1970年代と今日を比較すれば教育への不安や不信は当然だろうとして,意識調査の結果において社会格差容認派と否定派の捉え方に差異があることを紹介している。「AERA」9/19号のトップ記事は「ドラゴン桜」のお話といった有様。
議論の材料を提示したり,得ようとすることは大事なことではあるが,この代わり映えのしない方法論の神通力は,とうの昔に解体している。そのおかげで今日の混沌状態なのだから。
教職を目指す人たちと
5日に中央教育審議会のワーキンググループが,「教員免許更新制」の概要を固めたという。導入が決まるのは法改正案の通過次第だが,審議会レベルで制度導入を前提とした案が作られたということは,導入する気満々なのであって,郵政民営化反対くらいに政治的パフォーマンスの効果がない以上,反対もなく気がついたら決まっていると思う。
新規に免許状を受ける者から適用される予定の「更新制度」。ワーキンググループが固めた案は,1)「国が教員としての適格性基準をもうけ,それに見合う資質の有無を大学が判定し免許状を与える」,2)「原則として10年毎の講習を修了し適格性基準を満たさなければ免許が失効する」というもの。
これに「教職大学院」(教職系専門職大学院)導入の問題も合わせて諮問されているので,それと絡めた中間報告や答申が出てくるだろう。しかし,学校の先生の周辺で起こる出来事の中で,義務教育費の扱いに次いで大きな論点だと思われるが,世間の問題認知程度は「お金」のことのようにはっきりしない分,低いようだ。
素晴らしきPodcastの世界
遊園地つながりで,いま気に入って聴いているのが,米国ディズニーの50周年記念ポッドキャストである。たくさんのファンを持つディズニーランド,その本拠地ともいうべきロサンゼルスのDisneyLand(日本語版)が今年開園50周年を迎えた。それを記念して様々なイベントが行なわれているのだが,その一つがiPodとインターネットラジオを組み合わせた「ポッドキャスト」Podcastという技術による50周年番組放送だ。
ポッドキャストもしくはポッドキャスティングという技術は,たとえばiPodに付属しているiTunesというソフトなどの対応ソフトが起動するたびに新しい番組がないか自動チェックしてくれて,あれば自動的に手に入れてくれるという仕組みである。さらにiPodという音楽再生機を持っていれば,音楽の代わりに番組を自動的にセットしてくれて,出先でもiPodで番組が聴けるというわけなのである。これをポッドキャストという風に呼んでいる。技術というほど立派ではないが,ラジオ番組をオンデマンドで楽しむ手段というわけだ。
そしてディズニーが直々に提供しているのが「Disneyland® Resort 50th Anniversary Podcasts」というわけである。もちろん英語の放送。それでも皆さんにお馴染みの世界を様々なインタビューや入場者の生の声などで紹介する,大変魅力的な番組になっている。英語ヒヤリングの教材としても価値あるのではないだろうか。
義務教育意識調査2005
中央教育審議会の義務教育特別部会というグループが18日と19日の2日間にかけて,合宿審議した。その場で報告されたのが,「義務教育に関する意識調査[速報]」だという。
小学4〜6年生
中学1〜3年生
小学1年生〜中学3年生までの保護者
学校評議員
小中学校教員
都道府県市町村の教育長
都道府県市町村の首長
という7種類の対象者に義務教育の様々な事柄について質問紙調査したものである。実施したのは平成17年3月もしくは4月まで。総合的な学習の時間に関する受け止め方などを質問した点で大変注目されている。実際,マスコミ報道のネタとしては垂涎の的だろう。データとしては基本推計表を参照すれば,ある程度の数値がわかる。それをもとに「わかりやすく」まとめた速報が今回提示されたわけである。
これをさらに,いろんな条件を交わらせながら詳しく分析する作業によって,「わかりやすく」したために犠牲になった「よりまとも」な解釈を得ることができるというわけである。それが10月を予定している最終報告書というわけだ。
なので,今回の速報に関する報道内容は,「まずは全部疑ってかかる」というのが大事である。
新しいカリキュラム研究している方募集
カリキュラム学会第16回大会(2005)の最後は,2つの課題研究だった。一つは「目標に準拠した評価の課題」。もう一つは「新しいカリキュラム研究の模索と展望」というテーマ。評価の方も興味があったが,それは録音してもらうことにして,新しいカリキュラム研究の方を聞くことにした。
司会者と登壇者は,それぞれ実力派の若手研究者。そして指定討論者は我が師匠でもある安彦忠彦先生。いつもよりはフレッシュなメンバーによって,どんな新しい課題が提示されるだろうと,わくわくしながら聞いていた。けれど,わくわくは次第にもやもやに変わり,最後にはフラストレーションで終わった。いまから,ちょっと乱暴で勝手なことを書くけれど,どうかお許し願いたい。みんな,よき先輩方ばっかりだから,こんな形で取り上げるのはアンフェアでとても失礼だと思うけど。
保育所実習訪問
今日は朝からあちこちの保育所を訪問してきた。30分区切りで次の園,次の園,そのまた次の園と‥‥,全部で9園にお邪魔した。毎回,この手の出来事を駄文に書くときには「子どもたちと関われるので楽しい」と書いているが,今回も相変わらず。学生達も一週間ほど経過して,だいぶ子どもたちと仲良くなっているようだった。
全国的にも待機児ゼロが目指されていることはご承知の通りだが,それを現状で律儀にやっていくと,どうしても施設的にも人的資源的にも限界がある。お会いした保育士さん達は口に出して言いはしなかったけれども,とても厳しい状況の中で仕事をしている。といっても,同じ市町村でも少し場所が変われば環境も違う。一つの保育所に250名もの子どもたちを預かり活気あふれるところもあれば,80名くらいの子どもたちがのんびりとした周辺環境で穏やかに過ごす保育所もある。一概にどうこう言えないのも確かだ。
ただ,それぞれの具体的な条件がどうあれ,次代の子どもたちをしっかりと預かるという仕事に必要な労力は,私たちが思う以上に大変なのだ。子どもと一対一の息の詰まる関係で子育てに悩むお母さん達の存在は徐々に知られるようになり,理解も得られ始めているように思う。それが一対二〇(1:20)とかの関係になったら少しは楽‥‥なんてわけがない。時間が限られているし,他人の子どもさんだからという点を加味しても,やっぱり大変だ。
と,保育士さん達の心配をしている場合ではないか。自分の仕事のことを進めないと。いよいよ切羽詰まってきた。本当は学会発表が終わってから保育所周りしたいのだが,スケジュール的に辛いので。さて,頑張るか。