ビデオPodcastと新iMac

 本日の「視聴覚教育メディア論」の講義で,テレビとビデオの歴史を語った。最新動向として,先日発売されたばかりの動画再生機能付きiPodの紹介を熱っぽく語ったら,学生から「なんだか,話し方でアップルが大好きな印象を受けたのですが」と鋭いコメント。バレバレでした。
 先日発表された新iPodと新iMac。教育らくがきのアップル好きはすでに周知の事実だが,それにしたって今回の新製品がモバイル・ラーニング分野に与える影響は大きいと思う。米国では,人気テレビドラマを過去のものはもちろん最新放映分も放送後翌日に購入できるといったサプライズ発表もあった。
 しかし,何よりもPodcastの世界に「ビデオPodcast」が加わるということが,一番のニュースである。つまり,自分で短いビデオクリップを制作して,ブログに定期的にアップすれば,それは個人ビデオ放送局になるということだ。
 このビデオPodcastの可能性は,従来のPodcast(ここではラジオPodcastとしよう)よりも広い。これまでのラジオPodcastは音声のみである点で,ある意味個人制作が難しい代物だった。え?音声だけだから楽なのではないか?とお思いかも知れないが,実は表現手段が制限されている分だけ,センスや技能が必要なのだ。簡単だと思う人たちや現在制作している人たちは,そういうセンスや素養を持っている人たちというだけである。
 逆にビデオPodcastになると,ずいぶんと敷居が低くなる。というのも,ビデオカメラの普及と活用のされ方を考えると,結構な素材がすでにあちこちで眠っている可能性があるからだ。アップルが用意していたiMovieというソフトは,そうした眠っているビデオ素材を掘り起こすソフトであった。そしてこれまではDVDに焼いて楽しもうというアプローチだったのである。しかし,ようやく新たな楽しみ方として動画対応iPodが登場した。


 要するに私たちは,DVDよりももっと手軽に映像を楽しめるツールを手にできる可能性を持ったことになる。自分が編集した短いビデオクリップを楽しむとして,DVDと動画対応iPodを比べたとき,やはり手軽さでiPodに軍配を上げざるを得ない。そしてそれはいつでもどこでも楽しめるようになる。
 音楽プレーヤーとしてイヤホンを当たり前のように使うiPodに動画再生機能がつけば,そのままどこででも映像と音声を(周囲に迷惑かけずに)視聴することができる。
 私は英会話教材をiPodに転送して聞くことがある。こうした学習教材という分野にとっても,動画対応は大きな魅力を提供する。そして何よりも私たち教育現場の人間が自分たちで動画教材を製作し,それを簡単に見せることができるようになる。すでにいくつかの大学は,英会話学習の名目で入学生にiPodを無償配布しているところもある。こうした延長線上で,教育機関独自の教材を製作して見せることも可能だ。
 おそらく数年内には,放送大学もライブラリをビデオPodcastに対応させることを本格的に検討するようになるだろう。この事業に関して,いまからコンタクトをとる業者が儲けをとることになる。
 どこも話題にしないが,個人やアマチュアによるビデオPodcastの制作について可能性を提示しているのは,同時に発表された新しいiMacである。この新iMacには,iSightと呼ばれる高品質なカメラが搭載されている。Apple社はこれをビデオチャットソフトで活用したり,新しい自分撮影用のソフトと組み合わせてコミュニケーションを楽しむと紹介している。
 しかし,当然ながら,このカメラはiMovieで動画を撮ることができる。つまり簡単にビデオPodcastの素材を録画できるわけだ。特に,大学講義系のようなスピーチビデオを撮るのに役立つ。
 私の頭の中でのつながりはこうなのだ。オンライン上で教科書をつくろうとするプロジェクト「WikiBooks」がある。オンライン上でeラーニングサイトを構築するツール「exCampus」がある。オンライン上で活躍する優秀な研究者も大勢いる(うちは除く)。講義ムービーを自主制作する。exCampusと連携するブログにアップしてビデオPodcastする。いろんなコンテンツが個人の手によってたくさんつくられる。みんなハッピーになるように難しい問題(著作権やいろいろ)を頑張って解決したり対処する。そういうコミュニティと活動が世間の教育に対する意識を高めるように働く。
 かなり大雑把であるが,基本線はこう。これに私はカリキュラム研究者として補助線が引けるよう,理論的な努力を提供するというわけである。それができれば私の研究者人生も悪くなかったってことになる。
 ま,こういうアイデアは,実現早い者勝ちだし,オリジナリティがあるとも思わないので,誰か手っ取り早く達成してくれることを願うばかりだ。少なくともApple社は,それを実現するエキサイティングな素材を提供してくれるので,「大好き」なのである。それは本当のことだから。