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最悪のチェックインnwa ((米国渡航記02))

 成田である。直前になってパソコンの不調を発見したので、システム入れ替えなんかしてたら、あっという間に時間が経過してしまった。正直眠たい。
 それでも旅立ちのときには、気持ちくらいは明るく元気にいきたいものである。そう思って成田へやってきたのに、最悪なチェックインからスタートした。
 ずらっと並ぶe-chekinマシンとは裏腹に、実際に受付をする場所は限定されていた。しかも、困ったことに、複数の係員が列の整理をするので、「あっちに並んでください」「こちらへどうぞ」「次の方、こちらへお並びください」と何のルールもなく並び替えさせられる。
 じっとしていた方が早かったりすると、もうこちらも堪忍袋の緒が切れそうだ。いったいこれはなんなのか?もう順番がやっと回ってきたときには、無口になっちゃったよ、私。
 そんなサービスのイロハも理解していない航空会社にあたってしまい、なんか憂鬱な旅の始まりである。さてと、そろそろ搭乗のタイミングだ。

また荷造り ((米国渡航記01))

 帰国したと思ったら,また出国準備。2007年,英国,豪州と続いた出張の締めくくりは米国である。今回はオレゴン州ポートランドで行なわれるインテル社のCurriculum Round Table (CRT)という会議に出席するためだ。
 とある調査研究のお手伝いが縁でインテル社の教育支援プログラムに関わることになった。ご存知,インテル社は世界的なコンピュータのチップ製造メーカーである。その企業の社会貢献活動の一つが「教育支援プログラム」である。これも全世界的な規模で展開している一大事業だ。いくつか支援内容があるが,主に教員研修支援が今回のテーマ。
 その世界各国で展開している教育支援プログラムに関する国際大会の一つがCRTである。何をするのかというと,世界各国の関係者が集まって,情報交換したり,最新情報を得たりすることが目的らしい。
 また改めて(営業マンになったつもりで)インテル教育支援プログラムのご紹介をしていきたいと思う。今後,教員研修が重視されるとともに,より多様な研修を必要とする時代において,民間が様々な形で提供する研修プログラムを利用することが求められるのは確実。そのためにも私企業と教育界との意思疎通が円滑に進むように努力をしなければならない。そのお手伝いをするのも,大事なお仕事だと考える。

 そしていつもの荷造り。さすがに3度目だから荷造りのコツは掴んできたように思う。問題は部屋の掃除がまるきり出来てないことか。ヒドい状態のまま部屋を空けるのが悲しい。
 さてと,今夜も夜更かしである。

日豪と教育 ((豪州渡航記10))

 海外視察へ出かけるデメリットがあるとすれば「海外かぶれ」になりがちなこと。国の成り立ちも思想も全く異なる国の社会を表面的に眺めたら,そりゃ隣の花は赤く見えてしまうものである。
 海外渡航を記録した駄文を読み返すたび,その自分の浅はかさを痛感するのだ。だから罰として,そのまま恥をさらしておくことも教育らくがきの役目である。ここをお読みの皆さんは,私がどんなに浅はかか先刻ご承知だと思うけれど,とにかく常に「ほんとか?」と疑いながら,こっそりお楽しみいただければと思う。まあ,知ったかぶりして情報提供するのもこのサイトの役目であるから。

 今年は日豪が通商を開始してから50年にあたる年だという。オーストラリアといえば海と大地の国みたいなイメージがあり,観光はもちろんワーキングホリデーに出かける人も多いといった印象が強い。日本の英会話学校の外国人講師にはオーストラリア人が多いということもなんとなく聞いたことがある。
 そんな豪州は,日本の約20倍という国土に,約2000万人の人口というバランスの国である。国土の8割ほどが乾燥地帯だが,資源や食糧は豊富なことと自国の人口が少ないことから,多くを海外輸出に回せるらしい。
 というわけで,日本や中国など資源を必要としている国にとって,豪州は頼りになる通商相手国なのである。いま日豪間では,自由貿易協定や経済連携協定の締結を目指しており,さらに安全保障面での関係強化についても共同声明を計画している。豪州は日本やアジアにとって,ますます重要な国になるというわけだ。

 豪州は深刻な教員不足に悩んでいる。少なくとも西豪州の教育訓練省は,広報紙「SCHOOL MATTERS」の最新号に掲載されたA/Director General(肩書きの全体像を確認しようと思ったんだが,事務局系の組織図が見つけられなかったので「A/」の意味が不確かである。Acting Director Generalではないかと推察される。差し詰め「執行統括教育長」みたいな感じか…)の挨拶文で,教員定員を埋められなかったことが述べられている。そんな状況の中,子ども達が新学期をスムーズに始められるよう現場の先生方が尽力したことに感銘したとある。
 先日の駄文にも書いたように,西豪州は喉から手が出るほど教員が欲しい。現地通訳として私たちを助けてくれた日本人のヤスミさんも,学校で日本語を教えている先生である。とにかくなり手が少なくて困っているらしい。シドニーやメルボルンといった東側で人口の集中している街は状況が異なるのかも知れない。州をまたげば違う現実があることも珍しくはないから。

 実はオーストラリアに対してもう一つ抱いていたイメージに「遠隔教育の盛んな国」というものがあった。人口に対して広大な土地であるから,さぞやインターネット上に様々なコンテンツが用意されているだろうと思い描いていたのである。
 ところが,英国ほどにはコンテンツがわんさと用意されているという空気が感じられなかったし,学校内での活用の様子もほとんど見られなかった。つまり第一に,豪州はもともと英語圏なので,ローカルな話題は別にして,豪州独自にコンテンツを用意しなくても英国や米国のコンテンツを利用することができること。第二に,学校内での利活用が見られなかったのは,そもそも英国のようにはICTが普通教室に入ってきていないという日本と似た状況にあること。こうした現実があったように思う。
 それから,遠隔教育そのものはしっかりと営まれているようだ。対応の仕方はこれも各州で異なっている。たとえば,二宮皓 編著『世界の学校』(学事出版2006.4/2500円+税)でオーストラリアを分担執筆した笹森健氏は,ニューサウスウェールズ州やクィーンズランド州といった東側のメジャーな州を取り上げており,遠隔教育についてもクィーンズランド州の「遠隔教育ブリスベンセンター」の事例を紹介している。
 ウエスタンオーストラリア(WA),つまり西豪州は,Schools of Isolated and Distance Education (SIDE)という学校をつくって運営するという形を取っているようだ。遠隔授業としてCentraというオンライン学習プラットフォームを活用したインタラクティブ授業も行なっている様子。興味のある人はWebサイトを探索するといい。

 あらためて,海外視察というものは,ストレスフルなものでもあるとも感じた。他国の事情を見ることで,自分自身が見えてくる。すると「何やってるんだろう,自分…」という境地になりがちなのである。
 もちろん視察先から学ぶべきことはたくさんある。そして,話を深く聞き出していけば,その国が抱える独自の問題も見えてきて,(いつものセリフ)「物事そう簡単ではない」ということが分かったりもする。
 結局,自分自身が「どう生きたい」のか。最後にはその選択にかかっている,としか言えなくなっている。その上で,既存の枠組みを踏まえて,あるいは隙間を突いて,現実を変えていくことになる。問題は,日本でそのためのコンセンサスがまったく形成されていない点にある。そのための「場の形成」さえ,官僚慣行と政治の壁に阻まれて形成しづらいのは事実である。
 豪州にしても英国にしても,そもそも多様な人々の集まりであるという点が合意形成への努力に繋がっているのだろう。Public Relations (PR)に対する理解の深さにも表れている。多様なパブリックに向けたリレーションの仕方に努力が払われたわけである。
 一方,日本も歴史的には複数民族国家であるはずなのだが,早くから識字率が高く,江戸における手習塾の普及の高さなども功を奏してリレーションし易いパブリックが生まれた。効率という点でこれほど素晴らしい状態もないが,問題はリレーションへの努力に注意が払われないままに来てしまったこと。
 現在の日本は,パブリックは多様化したうえ意識水準は低下。リレーションするための努力も上がったわけでもない。結局,そこに個人情報保護の暴走とか,企業の不祥事隠しとか,言語意識の粗雑な政治家とか,マスコミの放送内容虚偽とかの問題が起こってくるのである。要するに日本全国,知的足腰がガタガタなのである。

 安彦忠彦先生が「教育課程の見直しに参加して」という連載をこの3月号まで「現代教育科学」誌で執筆されていた。今まさに展開している中教審の教育課程部会での作業を研究者委員としての立場から報告されている興味深い連載である。その論調は普段の安彦先生のものとは異なり,かなりジャーナリスティックというか,政治と向かい合って苦しむ様を描いていた点で驚きのものだった。
 規制緩和と地方分権。これが日本の現在の方向性である。そう考えると豪州の状況と似たようになるとも思える。ところが,肝心の地方には様々な問題が存在し,「教育」に対するエネルギーやリソースの注ぎ方にはすでに大きな格差が存在する。まだまだ国が手を入れなければならない箇所が多く残ってしまっているのである。
 規制緩和と地方分権。これを少しばかり逆行して,それぞれの地方が教育についてしっかりとエネルギーとリソースを注ぐ体制ができるまで国が手を入れられるようにするのか,それとも地方の底力を信じて国が関わることを禁ずるのか。ソフトランディングとハードランディングのどちらが日本という国にとってよいのか,もっと議論を深めなければならない。
 ただ,いずれにしても教育現場に関わる者には,信念と努力を伴った柔軟性が求められる。もっと広い視野で自分自身の教育実践を構築し展開しなければならないと思う。次代の子どもたちは,本当の意味で世界を股にかけて動き回る時代を生きていくのである。そう考えたとき,日本の教育あるいは教師を取り巻いている縛りは,あまりに狭いことは明らかなのである。そして,その縛りを乗り越えていく力を現場の先生達はすでに持っている。それもまた明らかなことなのだ。
 一人一人の教師は,もっと自信を持っていい。そしてもっと努力できる環境を手に入れるべきである。いずれはその場所が日本でも豪州でもありうる時代になる。教師もまた世界を股にかけるはずなんだ。

帰国 ((豪州渡航記09))

 学校視察についての記録がまとまらずエントリー公開する前に帰国のときと相成った。この一週間あちこちの学校を視察したおかげで,西オーストラリア州の教育について,細部は別にして,大雑把なところは見えてきた。
 メディア・スタディに関する視察という趣旨に添って,現地での視察をコーディネイトしていただいたのは,西オーストラリアでメディア・スタディの神様と呼ばれているJan McMahonさんと,共著などでJanさんと一緒に仕事をしているEdith Cowan Univ.のJulie Keaneさんのお二人。
 明るく優しいお二人による配慮の行き届いたコーディネイトのおかげで,大変充実した視察を行なうことができた。
 西オーストラリアのカリキュラム・カウンシルでメディア・スタディのカリキュラムについて作業をしたほどの大御所なのに,とてもフレンドリーに接してくれたことは印象深い。私の下手な英語が通じたように錯覚したのも,終始こちらにレベルを合わせてくれた皆さんのおかげだろう。

 ところで,オーストラリアに上陸したのは今回が初めて。首都はキャンベラで,有名なシドニーやメルボルンといった都市もほとんど東側に位置している。そこにはこれっぽっちも寄らず,始めてたどり着いたのがパースという街だ。
 西オーストラリア州は,砂漠も含めてオーストラリアの西側をがっぷりと占めている大きな州である。主要な都市は南にあるパースと北にあるシャークベイで,その他にもさらに北にブルームとかカナナラという都市があるようだ。
 季節は夏。ところが,私たちの滞在中は天候が悪く(なんだ,いつものパターンか?),水不足が心配されるほど降らなかった雨が降る始末。どうも東京に出てきてからというもの,行く先々で雨に見舞われるようになってしまった。雨男の烙印を押されかねない状況だ,とほほ。
 もっともそんな天気も週末まで。最後の方にはオーストラリアの夏らしい夏の日がやってきて,久し振りに大量の紫外線を浴びた。暑くて出していた肩が日差しを浴びてひりひりである。
 街中は時間帯によっては人混みもあったりして,アメリカなどの街角の雰囲気と変わらないが,キングス・パークという公園からのパースの眺めや住宅地域に突如現れたりする公園などの景色は,息をのむ美しさである。
 こういう住環境に一時は住んでみたいと思う。賑やかさが足りない面もあるので,ずっと住むとなると寂しいかも知れないけど。

 パース空港を午後5時前に飛び立ち,乗り継ぎのシンガポールので約5時間。それから数時間待ち,午前12時前に成田へ出発。半日かけての移動で,21日朝に日本に帰国することになる。

Mac大活躍 ((豪州渡航記06))

 参観しているのがメディアの授業ということもあって,視察した学校にはアップル社のMacパソコンがごく当たり前に整備されている。同行したMac好きの先生方は大喜びである。
 かくいう私も教育界でのコアなMacファンである。正確にはAppleファンであるから,Macに限らずApple関連は大いに関心がある。

 メディア・スタディでは映像作品などを制作するため,その道具としてMacが用いられる。もちろんWinPCも利用されているのでご安心を。
 西オーストラリアのメディアの先生達は,誰もが口を揃えて「映像編集などをするときにはMacがいい」という。プロフェッショナルな映像編集をする場合にはアドビ・プレミアを使うことが多いらしく,そのときはどうしてもWinPCになる。それと公立学校は予算の絡みもあってWinPCのみの場合も多いが,私立学校の場合は必ずメディア・スタディ用にMacが導入されていた。
 すでにご紹介したポッドキャトを制作している小学校では,もちろんMacを使っている。

 これはMacに用意されている「iLife」というアプリケーション・スイート(セット)がメディア制作物に適しているためである。
 映像編集の「iMovie」と「iDVD」,音声楽曲編集の「GarageBand」,お馴染みの無料音楽プレーヤー「iTunes」も仲間である。そして写真アルバムソフトの「iPhoto」,ホームページ編集ソフト「iWeb」といった構成だ。
 プロ用の映像ソフトとしては「Final Cut」があり,放送業界で高い支持を得ている。アドビ社の「プレミア」というソフトは現在WinPC用しかないが,次期バージョンではMac版が復活するらしい。
 そしてご存知のようにMacにはこれらを支える基本ソフト「Mac OS X」があり,その使いやすさや堅牢性はあちこちで語られているとおりである。最近出たWindows Vistaと同等以上の機能でありながら,より安定しており,安心して使えるというわけである。
 この辺は半分営業トークみたいなものなので,割り引いていただいても構わないが,少なくとも私はそう評価している。

 海外の教育市場では,昔からApple社の存在感が強く,しばらく市場シェアが低迷していた時代にはWinPCが教育市場を席巻してしまったときもあったが,そんな中でもApple好きな先生や学校は残っている。これも他に倣うというよりは,自分たちで何が必要かを見極めた上で教育ツールを選択している諸外国ならではの結果であろう。
 まあ日本の教育界のMac無知度は,『NEW教育とコンピュータ』誌の視野の狭さを見れば一目瞭然(NEW誌は一刻も早くMac関係のための記事ページを毎月確保すべきである。部数に貢献するはずだ。なんならボランティア執筆してあげるし…)。そんなメディアとしては多様性も自己批判のへったくれもない状態の雑誌が情報教育の主要雑誌なのだから,私は端で見ていて悲しいのである。
 (教育分野でパソコン雑誌を発行する苦労は,現れては消えた雑誌達を見てきたからよく分かってる!「Pasotea」という野心的な雑誌を出していた気概だって知ってる。知ってるからこそ,苦言を呈してるんだ。あの時の気概はどこへ行ったのかってこと!学研の偉い方々!もう一度,この時期だからこそチャンスをつくって欲しいものである。教育の情報化の時代にもかかわらず,教育の情報化を語る雑誌がほとんど無いんだぜ。ほんとにもう。)
 (追記:あっ,5月号から値下げって書いてある。やっぱり高いってわかってたな。それとも発行部数増えたのかな。CD-ROM削減だけでそこまで安くはならないだろうし。まずは一歩前進…)

 というわけで,Mac大好き教育関係者の声を勝手に代弁してみました。

西オーストラリアの教育 ((豪州渡航記05))

 今回の視察はメディアスタディを中心にしたものである。今一度,西オーストラリア州における教育についておさらいしよう。
 なお,オーストラリアは連邦国なので,教育に関しては州単位で制度が異なっている。個別の独自性を重んじる文化であるため,州だけでなく,地域・地区,学校・教師毎に異なる教育実態が展開していると考えるのが自然である。その上で,ある程度共通な部分について見てみたい。

 まず西オーストラリア州の学校段階は次のようになっている。
・Kindergarten
・Primary School (Year 1-7)
・Junior Secondary School (Year 8-10)
・Senior Secondary School (Year 11,12)
 俗に言う「K-12」という形である。学年に「5」を足せば年齢になると覚えよう。西オーストラリア州はご覧のように7-3-2制の学校段階制度をとっているが,同じオーストラリアでも他の州は,6-4-2制になっているところもある。
 また,Secondary Schoolの呼び方は,学校によってHigh Schoolとするところもあれば,Collegeと呼んでいるところもある。
 義務教育はPrimary SchoolとJunior Secondary Schoolで,Year1から10までの10年間である。Year11と12は進学準備期間の段階となり,どんなコースを選択するかは進路次第である。

 K-12の教育内容の枠組みは各州毎に決められているが,オーストラリア全体の国力と国際競争力を上げるなどの議論もあり,Australian Education Councilによって8つの領域が示されている。
 8つの領域とは:
・The Arts
・English
・Health and Physical Education
・Languages Other Than English
・Mathematics
・Science
・Society and Environment
・Technology and Enterprise
 西オーストラリア州でもカリキュラム・カウンシルによって8領域のカリキュラムが示されている。それらはOutcomes and Standardsに基づくCurriculum Frameworkであり,Outcomes Based Educationという考え方を徹底しようとしている。 要するに評価規準を予め明確化する考え方である。
 Outcomes and StandardsCurriculum Framework(標準成果とカリキュラム枠組み)という考え方について議論を始めると長くなってしまうが,大雑把に日本との違いを指摘するなら,教科書に関する文化の違いが一つある。
 諸外国のカリキュラム研究ではCurriculum Implementationという領域が盛んに議論されるのであるが,日本の私たちにはいつもピンとこない。というのも日本には検定教科書があり,日本におけるCurriculum Implementationの大部分を教科書会社が担っているためである。これを根強い教科書信仰が支えているというわけである。
 西オーストラリア州の教育関係者曰く「私たちにはそういうテキストブック・カルチャー(教科書文化)はない。」授業でどんな教科書や教材を使うかは,専門家たる教師もしくは学校で決めることになる。
 目指すべき標準成果とカリキュラムの枠組みがきっちりつくられると同時に,それらを実際の学校実践に落とし込む(Implementation)部分に教師や学校の創意工夫が求められているわけである。

 Year11,12にも成果(標準目標)とカリキュラム枠組みが用意されているが,この学年の子ども達にはいくつかの選択が用意されている。なお,西オーストラリア州ではよりフレキシブルなYear11,12コースへと転換中である。
1)大学進学コース
 大学進学を考えている生徒にはTEE (Tertiary Entrance Examination)と呼ばれる大学入学試験に向けたコースが用意されている。ちなみにオーストラリアには大学が少なく,進学率もそれほど高くないらしい。
2)TAFEへ進学
 Year10修了とともにTAFE (Technical and Further Education)という専門学校へ進学することもできる。早くから自分の職業が明確になっている生徒は,専門学校へ進んで専門知識を積み上げた方がよいのだろう。
3)一般コース(そのまま進級)
 大学進学でもなく,すぐにTAFEという道も選ばない生徒は,ごく普通にYear11,12に進級する。ちなみに一般コースという名前があるわけではない。Year11,12で学ぶ内容は,必須のEnglishを除いて全て選択である。イメージは日本の総合高校だろうか。WACE (Westan Australian Certification of Education)という卒業認定を取得することが求められる。
4)就職
 もちろん働き出す生徒もいる。

 問題となるImplementationの部分は,学校と教師によって様々である。Curriculum Frameworkは明確であるが,それを満たす授業づくりは全くの白紙といってもいい(正確に記せば,白紙にもできる自由度があるということだ)。
 Primary Schoolの先生は,いくつかを除いて全ての教科を担当する。それゆえ,日常の時間割について柔軟に変更が可能である。また,教科の授業区切りも自由に設定できる。
 Secondary Schoolの先生は,教科の専門がある。メディア専門の先生は,8領域のうちのArts領域で授業を行なうことになる。またEnglish領域でもメディアを扱う部分があるが,こちらはEnglishの先生が担当することになると思われる。実態は学校毎に異なる可能性があるからだ。
 Year11,12において,約50種類あるWACE卒業認定の「Media Production and Analysis」を取りたい場合には,メディアコースを選択する。そうすると必須の英語以外はメディア関係の授業で時間割を埋めることができる。
 そうすると毎日の如く,メディア制作やら何やらに取り組むことができるわけだ。映画「カサブランカ」を見ながら学習していた学校の様子は,このメディアコースというわけである。
 というわけで,子ども達の学習を促進させるために教師のもてる能力を発揮しなさいという基本方針があり,それがどのようなものかをについては教師次第という点に,強さもあれば弱さもあるといった風なのである。

 西オーストラリア州は中国特需のおかげで鉱山系の業界で好景気が訪れているという。その業界での給料が軒並み高水準らしい。
 一方,教師業は低賃金の上に重労働。教師は専門性を要求されるから,それなりの知的水準の人物であることが求められるが,その人物に見合う給与を出せないでいるというのが現実だという。これはどこの国でも同じだが,トラック運転手の稼ぎの方が教師よりもよいという状況から,西オーストラリア州は深厚な教師不足が問題となっており,つい先日も教員の定年延長と海外からの教師のなり手を募集することがニュースとなっていた。
 というわけで,日本も団塊の世代の大量退職によって教員不足が叫ばれているが,日本の教員志望諸君,西オーストラリアで教員をするというのも人生経験としてよい選択しかも知れない。
 日本よりも教師としての自由度が高く,重労働とはいっても5時でスパッと終わるメリハリある労働環境。そのうえ,西オーストラリアの豊かな自然が間近にあふれる住環境。もしあなたが世界をフィールドとして教育に貢献したいというなら,私はむしろ世界に出ることを勧めるね。それから日本に戻ってきて,広い見識のもとで日本の教育現実を変えることで故郷に錦を飾って欲しい。しばらくの間は,我々が日本で格闘しておくから…。

  海外視察を英国,豪州と見てきたが,どんな選択をした国で生きているのか,あるいは自分たちがどんな生き方をしたいのか,改めて考えを深めなければならないと痛感する。
 そして教員としての生き方も問われなくてはならないのかも知れない。これについては帰国後に関係する研究会もあるので,もう一度そこで考えてみよう。

ポッドキャストとGoogle Video ((豪州渡航記04))

20070216_og01 視察3校目はOrange Grove Primary Schoolという公立小学校である。全校生徒が120名程度の小さな学校だ。

 この学校は西オーストラリアから少し離れた場所にあるが,住宅地というよりは,広大な土地にぱらぱらと家があるという感じなので,子どもの数もそれほど多くないというわけである。
 校舎もこぢんまりとしたものだが,土地はあるし環境が素晴らしい。この環境にKindergartenからYear7(幼稚園から小学生)までが学べるというのだから,必ずしも私立が全て良いとは限らないのだ。

 こんな都会の喧噪とは無縁の小さな学校が世界中で有名なのは,この学校で取り組んであるポッドキャスト制作の授業のためである。

 Year4と5のクラスでは,毎月一本を目指して子ども達自身がポッドキャストの番組を放送している。実際の制作は先生がバックアップしているわけだが,番組内容や語りは子ども達自身が担当し,その時々の学習内容に即したテーマについて各人がコーナー番組を用意,それらをつなげた上で公開している。

 ポッドキャスト制作には,アップルのマックというパソコンとそれに付属している音楽制作録音ソフト「ガレージバンド」を活用している。
 このソフトはマックを購入するともれなく付いているうえに,録音と編集が容易,BGMも予めあれこれ用意されているので,簡単にポッドキャスト番組が制作できるというわけだ。

 授業の流れとしては,次のような感じだと推察される。子ども達にテーマを与えて,まず内容を考えさせて原稿を作成させる。放送原稿は実際に自分が読むものになるので,どうやったら聴いてくれる人に自分の言いたいことを伝えられるか,いろいろ考えることになるだろう。

20070216_og02 原稿ができあがったら,全員が集まる。教室にはマック・パソコンと液晶プロジェクタ,インタラクティブ・ボード,そしてマイクとスピーカーが用意されている。そこでみんなに囲まれながらそれぞれの番組を吹き込んでいく。
 吹き込んでいる間は他の子達も静かにそれを見守っている。吹き込みは満足するまで何度でもやり直しができることを予め伝えてある。そして吹き込みが終われば,前後の余分な声があればカットし,好きなBGMを選んだら完了。

 インタビュー番組の場合は,iPodをICレコーダーにできる機械を取り付けて,それで子ども達とインビュー対象者を交互に録音したりする。
 今回,私たちの視察団も代表のN先生がゲスト出演。子ども達から予めインタビューの質問をもらってあるので,それをもとに対談形式で録音した。近く公開される番組で声を聴くことができるだろう。

 ポッドキャストを教育に取り入れること自体はあちこちで試みが見られるようになってきた。私自身,十分な成果とはならなかったとはいえ,ポッドキャスティングを教育現場で制作したし,このサイトでも(しばらく途絶えているが)ポッドキャスティングを展開中である。

 ただ,この学校の場合,小学校で学習に結びつけて継続的に展開している事例として貴重なのだろう。豪アップル社のサイトでも教育の事例として紹介されているほどである。世界中からファンレターも届いているそうだから,なかなかのものだ。

 ポッドキャストの制作と公開に関しても,保護者の同意の手続きを経ているという。子ども達の個人情報の扱いに関しては,西オーストラリアもかなり神経質になっているようだ。
 ただ,ポッドキャストの場合,顔が出るわけではなく声だけであり,また名前もファーストネーム(日本で言えば下の名前)だけが番組で出てくるだけなので,子どもの特定は写真や映像よりも難しい。その点,保護者の同意は得やすいようなニュアンスであった。

20070216_og03 ちなみに小学校の先生は日本と同じように全教科担当する感じの存在だ。しかし,日本と違うのは担当するクラスの科目や時間割を自在にコントロールすることができる点。教科の区分を明確にすることもできるが,一方で,教科といった切れ目を曖昧にして,統合的に授業を構成していくこともできる。ポッドキャスト制作もそういった環境の中だからこそし易いのだろう。

20070216_ml01 視察4校目はMt. Lawley Senior High Schoolという公立学校だ。1955年に開校した学校で,それなりの歴史を持つ学校である。

 Middle School(Year8,9)とSenior School(Year10,11,12)から成り立っており,校舎もそれぞれ分かれている。ちなみに校舎は最近建て直したらしく,新しさが残るキレイな環境である。

 ここでもYear11と12(つまり高校生)のメディアの授業を覗かせてもらった。インターネットなどを利用して「ポップカルチャー」もしくは「音楽分野」について調べ,自分なりのプレゼンテーションを制作するのが課題であった。

20070216_ml02 生徒達は思い思いのテーマでインターネットサーフィンをしたり,ワープロで発表内容をまとめているようだった。多くの生徒が音楽分野に関する調べとして,Google Videoを検索して音楽クリップを見ていた。男子生徒はそれ見てボーッとしている感じが無くはなかったが,まあ,何を調べてどんなことを学んだのかを記録して提出しなければならないので,それはそれで授業を楽しむという点でよいらしい。

 ちなみにGoogle VideoはいずれYouTubeに吸収されるという話もあるが,教室ではほとんどの生徒がGoogle Videoを使っていた。「なんでGoogle Videoを使っていて,YouTubeは使ってないの?何かルールでも設定しているの?」と先生に聞いたら,「僕には決める権限はないんだ。テクニカル・コーディネイターが決めることだからね」と言葉が返ってきた。
 最初,返答の意味がよく分からなかったが,ふと思いついて空いているパソコンでYouTubeにアクセスしてみたら「表示できません」と出てきた。つまりアクセス制限をしているということだ。なるほど。

20070216_ml03 教室環境は,iMacG5が12台。無線LANアクセスポイントも完備している。この新しい校舎は教室だけでなく,廊下の壁にも電気と情報のコンセントが用意されていて,いろんな形の活動に対応できるようになっている。どうやら同じ公立学校でもこういう贅沢な環境を持つところもあるらしい。

 オーストラリアの高校生(Year11,12)は,英語のみが必須で,あとは選択科目である。そうやってその後進む道に合わせて基礎勉強を積み上げていくことになる。もっとも同じ年齢でもYear10を終えて職に就く人達もいる。

 さらに大学進学は日本ほどポピュラーではないので,多くは職業教育を受ける専門学校(教育コース)に進学することになる。その専門学校(教育コース)をTechnical and Further Education (TAFE)と呼んでいる。オーストラリア中あちこちに,この専門学校(教育コース)があるという感じである。

 というわけで,Year11とか12とかでメディアの授業を受けるということは,自ら選択科目として選んだ生徒が出席していることになっている。ゆえに,将来的にはメディアが絡む職業を目指すつもりがある生徒達という意味にもなる。最近ではメディア関係を選択する生徒が増えているという話らしい。

 ポッドキャストもGoogle Video(YouTube)も発信メディアとして登場し,脚光を浴びている。しかし,以前にも思ったことだが,個人情報の話もあるように,ますます子ども達が自分を発信することに関して神経質な時代にもなっている。個人情報やプライバシーの問題は神経質になりすぎても足りないほど注意を払わなければならないことは当然なのだが,それにしても気軽な発信メディアがようやく手に入ったのに,こんなに必要以上に気を遣う必要が出てきてしまった事態に,少し残念な気持ちも伴う。

シンガポールで乗継ぎ ((豪州渡航記02))

 豪州パースへは直行便ではなく,シンガポール乗り継ぎで向かっている。6時間弱のシンガポールへのフライトのあと,ほぼ6時間待ってから,さらに6時間のフライトでパースにたどり着く。いまはシンガポールの空港にて。
20070213_singapore ご一緒している皆さんとシンガポールの街へ出て,街歩きと屋台での夕食。空港に戻って軽くシャワーを浴びて,あとは時間まで待つのみ。シンガポールと日本には1時間の時差があるが,現地時間で夜中の1時発,日本時間でいえば夜中の2時に出発である。パースには翌早朝に到着するので,ホテルのチェックインには早いというのが難点か。
 ところで,シンガポール空港は乗り継ぎ旅行者のための施設が充実している。インターネット接続整備も無料で使用できるし,ノートパソコンのための電源もEthernetコネクタも自由に使用できる。ありがたや。
 海外ローミングサービスでお馴染みのiPassというものがあるが,こちらは世界中の電話アクセスポイントや無線/有線アクセスポイントに接続できるようにしている。専用の接続ソフトが必要で,ついこの間までインテル・マック対応版はリリースされていなかったが,気がついたら専用接続ソフトの新しいバージョンが登場していて,使えるようになった。これで俄然海外アクセスが便利になりそうだ。
 さて,今回の旅はどうなることやら。また追ってご報告したい。

とるものもとりあえず成田へ ((豪州渡航記01))

 有り難いことに豪州(オーストラリア)の学校視察に連れて行ってもらえることになったので,本日成田へ向かわなくてはならない。実は荷造りも部屋の片付けもまだ完了していないので,徹夜になりそうなのだ。

 オーストラリアの教育について手元にあるわずかな資料を紐解くと,地域や州が独自に教育行政や学校制度を営む仕組みであるようだ。それでいて,オーストラリア全体での国際競争力などを高めるため,連邦レベルでの審議会でナショナルカリキュラムを示したり,教育方針の足並みを揃えようともしている。実際には,本当に州毎の独自性を前面に押し出す傾向が強くて,訪れる場所によって同じオーストラリアでもかなり様子が異なるらしい。

 それでも,コンピュータ利用に積極的であることや,英語や英語以外の言語教育,そして広大な国土ゆえに遠隔教育などがオーストラリア全体の教育の特徴であるとされている。

 今回出かけるのはウエスタン・オーストラリア州にあるパースという都市である。で,パースという街がどういうところで,どんなことになるのか。学校視察がどんな風になっているのか,ほとんど飲み込めていない。いやはや,イギリスのことを消化するのに手間取ったままなので,オーストラリアまで手が回ってなかったんだよね,とほほ。

 というわけで,恒例の旅行記を綴りながら考えをめぐらせていくしかなさそうだ。ちなみに豪州は真夏。かなり暑いとの情報を得ている。半袖あんまり持っていないんだよなぁ。どうしよう…。