西オーストラリアの教育 ((豪州渡航記05))

 今回の視察はメディアスタディを中心にしたものである。今一度,西オーストラリア州における教育についておさらいしよう。
 なお,オーストラリアは連邦国なので,教育に関しては州単位で制度が異なっている。個別の独自性を重んじる文化であるため,州だけでなく,地域・地区,学校・教師毎に異なる教育実態が展開していると考えるのが自然である。その上で,ある程度共通な部分について見てみたい。

 まず西オーストラリア州の学校段階は次のようになっている。
・Kindergarten
・Primary School (Year 1-7)
・Junior Secondary School (Year 8-10)
・Senior Secondary School (Year 11,12)
 俗に言う「K-12」という形である。学年に「5」を足せば年齢になると覚えよう。西オーストラリア州はご覧のように7-3-2制の学校段階制度をとっているが,同じオーストラリアでも他の州は,6-4-2制になっているところもある。
 また,Secondary Schoolの呼び方は,学校によってHigh Schoolとするところもあれば,Collegeと呼んでいるところもある。
 義務教育はPrimary SchoolとJunior Secondary Schoolで,Year1から10までの10年間である。Year11と12は進学準備期間の段階となり,どんなコースを選択するかは進路次第である。

 K-12の教育内容の枠組みは各州毎に決められているが,オーストラリア全体の国力と国際競争力を上げるなどの議論もあり,Australian Education Councilによって8つの領域が示されている。
 8つの領域とは:
・The Arts
・English
・Health and Physical Education
・Languages Other Than English
・Mathematics
・Science
・Society and Environment
・Technology and Enterprise
 西オーストラリア州でもカリキュラム・カウンシルによって8領域のカリキュラムが示されている。それらはOutcomes and Standardsに基づくCurriculum Frameworkであり,Outcomes Based Educationという考え方を徹底しようとしている。 要するに評価規準を予め明確化する考え方である。
 Outcomes and StandardsCurriculum Framework(標準成果とカリキュラム枠組み)という考え方について議論を始めると長くなってしまうが,大雑把に日本との違いを指摘するなら,教科書に関する文化の違いが一つある。
 諸外国のカリキュラム研究ではCurriculum Implementationという領域が盛んに議論されるのであるが,日本の私たちにはいつもピンとこない。というのも日本には検定教科書があり,日本におけるCurriculum Implementationの大部分を教科書会社が担っているためである。これを根強い教科書信仰が支えているというわけである。
 西オーストラリア州の教育関係者曰く「私たちにはそういうテキストブック・カルチャー(教科書文化)はない。」授業でどんな教科書や教材を使うかは,専門家たる教師もしくは学校で決めることになる。
 目指すべき標準成果とカリキュラムの枠組みがきっちりつくられると同時に,それらを実際の学校実践に落とし込む(Implementation)部分に教師や学校の創意工夫が求められているわけである。

 Year11,12にも成果(標準目標)とカリキュラム枠組みが用意されているが,この学年の子ども達にはいくつかの選択が用意されている。なお,西オーストラリア州ではよりフレキシブルなYear11,12コースへと転換中である。
1)大学進学コース
 大学進学を考えている生徒にはTEE (Tertiary Entrance Examination)と呼ばれる大学入学試験に向けたコースが用意されている。ちなみにオーストラリアには大学が少なく,進学率もそれほど高くないらしい。
2)TAFEへ進学
 Year10修了とともにTAFE (Technical and Further Education)という専門学校へ進学することもできる。早くから自分の職業が明確になっている生徒は,専門学校へ進んで専門知識を積み上げた方がよいのだろう。
3)一般コース(そのまま進級)
 大学進学でもなく,すぐにTAFEという道も選ばない生徒は,ごく普通にYear11,12に進級する。ちなみに一般コースという名前があるわけではない。Year11,12で学ぶ内容は,必須のEnglishを除いて全て選択である。イメージは日本の総合高校だろうか。WACE (Westan Australian Certification of Education)という卒業認定を取得することが求められる。
4)就職
 もちろん働き出す生徒もいる。

 問題となるImplementationの部分は,学校と教師によって様々である。Curriculum Frameworkは明確であるが,それを満たす授業づくりは全くの白紙といってもいい(正確に記せば,白紙にもできる自由度があるということだ)。
 Primary Schoolの先生は,いくつかを除いて全ての教科を担当する。それゆえ,日常の時間割について柔軟に変更が可能である。また,教科の授業区切りも自由に設定できる。
 Secondary Schoolの先生は,教科の専門がある。メディア専門の先生は,8領域のうちのArts領域で授業を行なうことになる。またEnglish領域でもメディアを扱う部分があるが,こちらはEnglishの先生が担当することになると思われる。実態は学校毎に異なる可能性があるからだ。
 Year11,12において,約50種類あるWACE卒業認定の「Media Production and Analysis」を取りたい場合には,メディアコースを選択する。そうすると必須の英語以外はメディア関係の授業で時間割を埋めることができる。
 そうすると毎日の如く,メディア制作やら何やらに取り組むことができるわけだ。映画「カサブランカ」を見ながら学習していた学校の様子は,このメディアコースというわけである。
 というわけで,子ども達の学習を促進させるために教師のもてる能力を発揮しなさいという基本方針があり,それがどのようなものかをについては教師次第という点に,強さもあれば弱さもあるといった風なのである。

 西オーストラリア州は中国特需のおかげで鉱山系の業界で好景気が訪れているという。その業界での給料が軒並み高水準らしい。
 一方,教師業は低賃金の上に重労働。教師は専門性を要求されるから,それなりの知的水準の人物であることが求められるが,その人物に見合う給与を出せないでいるというのが現実だという。これはどこの国でも同じだが,トラック運転手の稼ぎの方が教師よりもよいという状況から,西オーストラリア州は深厚な教師不足が問題となっており,つい先日も教員の定年延長と海外からの教師のなり手を募集することがニュースとなっていた。
 というわけで,日本も団塊の世代の大量退職によって教員不足が叫ばれているが,日本の教員志望諸君,西オーストラリアで教員をするというのも人生経験としてよい選択しかも知れない。
 日本よりも教師としての自由度が高く,重労働とはいっても5時でスパッと終わるメリハリある労働環境。そのうえ,西オーストラリアの豊かな自然が間近にあふれる住環境。もしあなたが世界をフィールドとして教育に貢献したいというなら,私はむしろ世界に出ることを勧めるね。それから日本に戻ってきて,広い見識のもとで日本の教育現実を変えることで故郷に錦を飾って欲しい。しばらくの間は,我々が日本で格闘しておくから…。

  海外視察を英国,豪州と見てきたが,どんな選択をした国で生きているのか,あるいは自分たちがどんな生き方をしたいのか,改めて考えを深めなければならないと痛感する。
 そして教員としての生き方も問われなくてはならないのかも知れない。これについては帰国後に関係する研究会もあるので,もう一度そこで考えてみよう。

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