日本のメーカーが長年取り組み続け幾度もの挑戦をしながらも商業的な成功に結び付けられずにいる「電子書籍」。鍵となるコンテンツを扱うノウハウが日本人には無理だったのか,米アマゾンのようなコンテンツデリバリー企業がようやく軌道に乗せつつあるというわけです。
残念ながら日本では提供されていない「Kindle(キンドル)」と呼ばれる電子書籍ビューアが,アメリカの市場で徐々に受け入れられつつあります。そして新しいバージョン2やさらに大型スクリーンタイプの「Kindle DX (Kindle 3)」が登場し,発表会が催されたようです。
この記事で気になるのは「新聞、雑誌、教科書を読むために特化した新しいKindle」という説明。教科書リーダーとしての活用を想定しているわけです。
このような薄型の電子書籍ビューアが,学校で普及するかどうかは,いろいろクリアすべき条件があると思います。しかし,すでに一般読書用として社会に受け入れられつつあり,昨今のエコ配慮ビジネスとしての喧伝に乗じれば,教育現場にKindleが入り込む余地は十分ありそうです。
ビューア機器としても薄型でなかなか魅力的なものになってますし,パソコンやiPhoneなどの携帯端末で閲覧できるソフトも用意されていますので,英語圏の書籍ビジネスにおいては,席巻するまでは行かないとしても,一定程度のシェアを確保して残っていくと思われます。
一方,日本語圏では,パナソニック(松下)やソニーなどによるチャレンジがありながらも,ご存知の通り,この2社のコンテンツに対する商売の下手さが足を引っ張ったり,日本の書籍取り次ぎ業者である日販や東販,出版社との牽制のし合いや動きの鈍さなどもあり,幸か不幸か,電子書籍の市場は限定的なものになっています。
教科書に限っていえば,光村図書といった先駆者達によるデジタル教科書といった取り組みが鍵を握っていますが,日本の教科書検定制度や法律などが邪魔をして,ビジネスとしてのチャレンジが進展しないという状況です。
もちろん,こうした規制は,社会的な趨勢によって緩和されつつあり,デジタル教科書を活用する下地も,大画面デジタルテレビの導入推進とともに努力されていることは事実です。
問題は,既得権益とは言わないまでも,従来のやり方や成功体験の範疇に留まり,新しいことに及び腰となっている日本のデジタル化スピードにあります。すでにGoogleが世界の書籍をスキャンして内容検索できるようにする試みにおいて,日本の著作権者達が知らぬうちに自分たちの著作についてもその俎上に載せられ,あとから慌てふためくという事態が起こっています。
もし,日本の教科書がまったく異なる文脈の中でデジタル化されて公開されたとして,日本の教科書会社や日本の図書教材の諸団体は,すぐに有効なアクションを起こせる準備があるのでしょうか。
また,そのような事態が起こってしまったとき,学校現場は,グレーな状態でデジタル公開された教科書を使うことを,どのように考えればよいのでしょうか。他者の権利が守れているのかどうかを常に不安に抱きながら教育にあたらなければならないのでしょうか。ニーズから生まれてくる誘惑に,つねに耐える苦労を強いられるのでしょうか。
教育的利用に関する許容範囲を無限に拡大するということは,誰も望んでいないことは明らかです。そうであるならば,著作権やそれにまつわって利益を得ている人々が,利用者と向かい合って,本気で未来を描き出していく必要が,そろそろあるのではないかと思います。
海の向こう側で起こっている電子書籍に関する動向のニュースから,こうしたことを読み取って考えていくことも,とても大事なことなのです。