Apple快進撃

パーソナルコンピュータには,基本ソフトの違いでいくつか種類がある。種類の違いによって起こる問題は,ワープロソフトやゲームソフトのような応用ソフトを基本ソフト毎に対応させ用意しなければならないことだ。つまり,基本ソフトを飛び越えて同じ応用ソフトを動作させることができない。
 さらには,同じ会社が作った基本ソフトでも,古いものと新しいものでは,動かせる応用ソフトが異なってしまうこともある。買ったパソコンや基本ソフトの会社ブランドを気にするだけでなく,その買った時期やバージョン(版)を気にする必要さえある。

 回りくどいお話から始まっているが,ここのところApple社(アップル・コンピュータ社)の快進撃が続いている。ご存知の通り,この会社はいまや音楽再生プレーヤー「iPod」の会社として有名で,先日も待ちに待ったiTunes Music Storeが日本でもサービス開始され,インターネット上での音楽配信(販売)が本格的になってきたのである。
 そしてこの会社は,いくつか種類のあるパーソナルコンピュータの中でも,ひときわ異彩を放ち歴史を作ってきた機種「マッキントッシュ」ことマック(Mac)を作った会社としても有名である。


 Macは,市場シェアこそWindowsマシンに大差で負けているのであるが,文化的・技術的影響力という点ではWindowsの世界に常に刺激を与える立場にあるという特異なパソコンである。
 MacとWindowsの対立の歴史や,その改良の歴史を書き出すと大変なことになるが,冒頭で書きたかった事は,パソコンというものの進化はこれまで落ち着きがなかったという事だ。もちろん今後も様々な変化がもたらされることは必至で,その度毎私たちは振り回されることになる。しかし,そろそろこの落ち着かなさは,ある程度安定へ向かう事も確かである,というのが本題なのだ。
 残念ながら,これまではWindowsのバージョンが異なると細かい画面操作が変わっていたりとか,Macも買い替えが必要だったりとか,Officeソフトだって古いワードと新しいワードでは文書ファイルに完全な互換性がなくて困る事が多かった。
 しかし,MacもWinも安定に向けた計画は着実に進展しているようだ。そしてそれを早くに実現しているのがApple社のMacというわけである。Macの基本ソフトであるMacOS Xは,21世紀に入ってから時間をかけて基盤部分を成熟させてきた。
 Mac OS Xの成熟性は様々な場面で垣間みられるようになっていた。OSシステムの安定性によって作業途中にデータを失うといった出来事は激減した。サーバ機(24時間動かしっぱなしのマシン)の基本ソフトとしても耐えうる。たとえばiTunes Music Storeを運用しているマシンはMacであり,24時間,日本中からの音楽ダウンロードをこなしている点を考えても,その信頼性は明らかだ。さらにウイルス関係の問題が少ないというメリットもしばらくは持続するだろう。
 こうした基本ソフトの成熟性と信頼性によって,Macがインテル・プロセッサを採用することになっても,その互換性について現実的なレベルで対応できる。おそらく,私たちはこれまでのMacと来年登場予定の新しいマックの中身の違いをあまり感じずに利用できるはずである。それができる会社がAppleという会社という事もある。
 Windows側はどうかというと,2006年に登場予定のWindows Vistaという新バージョンが,そのようなレベルを目指して開発中である。もっとも目標を実現するのに様々な問題に直面しているという報道もある。いろいろと目指しているものが違うので,MacとWinを同列に比べるわけにはいかないのだが,いずれにしてもWinは少しばかり時間がかかっているというのが実情だ。
 さて,そんなわけで,私個人は相変わらずApple社のMacを使い続けたいと思っているし,様々な仕事でそちらを使っている方がやりやすいという事がある。UNIXの系譜を持ち合わせている点などは,インターネットの世界とも親和性が高い。
 ところで「iPodとiTunes」と,たとえば「Network WalkmanとSonicStage」という音楽プレーヤー世界での競争も,似たような感じになっている。こちらはiPodのプロモーション勝ちで,いかにトータルなソリューションデザインが大事かってことがわかる事例でもある。ところが,それを得意としていたのは確か相手側のソニー社であったはずなのに‥‥。結局,「音楽CD」ビジネスをグループ企業に持っていた事が「技術のソニー」の目を曇らせてしまったのかなと思う。しがらみ負けしたわけだ。
 いずれにしてもAppleの快進撃。これはAppleファンとしては嬉しいこと。以前は,経営難で潰れるとまで言われ,不必要にマスコミ・バッシングを受けていたにもかかわらず,この大逆転である。仕事道具を作っている会社が生き残ってくれる事で,不安なく仕事ができるのはありがたいのである。