環日本海諸国図

 地図の世界は奥深く,いまだにイノベーションが起こっている領域でもある。衛星写真を用いてつくられた仮想地球儀を操作できる「グーグル・アース」の登場は衝撃的だったし,ジオタグ技術による様々なマップ・サービスは,ますます私たちの生活を楽しませてくれている。

 何年か前に乗った新幹線だったか飛行機だったかの機内誌のコラムに「環日本海諸国図」という地図が紹介されていた。大変印象深い記事だった。私たち日本に住む人間が認識している日本の地政学的な位置づけとはまったく違う認識をもたらすものだった。「逆さ日本地図」とも呼ばれている名前の通り,単に地図をひっくり返しただけのものにも関わらず…。

Kannihonkai_map

 ネット上検索すると富山県が独自に作成した地図があって,使用するには許諾の必要がある云々と少々煩わしい。それでも,富山県が自分たちの地理的位置を重要だと読み取りたくなるのも自然なくらい,国内都市の重心の捉え方に転換を迫る地図だと思う。

 休日の朝のテレビ番組で,国際空港政策の問題を取り上げ,日本の空港政策の破綻と韓国の仁川国際空港の台頭を報じていたが,それもこの地図を見ればさもありなんという感じである。アジア諸国やヨーロッパへのアクセスを考えると仁川国際空港は絶妙な場所にあるようにも見える。

 先日送られてきた日本教育工学会研究報告集には,教師の資質能力基準に関する研究報告が載っていて,米国の基準であるINTASCのカテゴリーの一つである「ディスポジション」について論じていた。INTASCというのは教師の資質能力について「10個の原理」それぞれを3つのカテゴリー「知識(ナレッジ)」「姿勢(ディスポジション)」「行動(パフォーマンス)」で構成した基準である。

 これを踏まえると,環日本海諸国図のようなものを「知識」として理解しておくことは重要であるけれども,おそらく私たちに求められているのはこの日本海諸国図に対してどのような「姿勢」をとるのかということだと思われる。「構え」と言い換えてもいい。その上で教育実践としてどのように「行動」するのかということへと繋がっていくのだろう。

 それは教師に限らず,私たち日本国民が,こういう知識や認識を前提とした姿勢や構えで生活できているのかと問われているのだと思う。

 逆さ日本地図が表している日本の地政学的な存在感を,肌で感じるようになることも必要なのかも知れない。