躊躇えばエンターテイメントにはならない

 新年度が始まり、NHKの教育番組にも新顔がお目見えした。その中に「歴史にドキリ」という番組があって、中村獅童氏が歴史上の人物に扮して歌って踊る歴史番組となっている。

 先日、第1回が放送され、番組Webサイトでも動画が見られる。しかし、どうもあまり評判が良くないらしい。

 実際、私も第1回分を見て、残念な気持ちになってしまった。毎回のテーマに誘う中村獅童氏の演技から番組は始まるのだが、歴史解説映像の間に挟まれている歌と踊り部分が浮いてしまって、存在意義が見いだせなかったからである。

 授業で見せることを目的とするならば、番外編にあるように歌と踊り部分は省いてもらって、もう少し落ち着いて解説して、中村獅童氏に語らせたほうがよっぽどマシだと思う。

 個人的にこの番組のスタートには期待していたし、応援していたのだが、この調子で続けて大丈夫なのか心配になってしまった。

 実は昨年度のうちに、この番組のパイロット版を見る機会を得ていた。

 それは徳川家康を扱った回として制作されたもので、現在放送開始されたものよりももっとポップな造りになっており、番組の構成は似ているが構造が全く違っていたのである。

 そして、私はそれが結構気に入っていた。

 正直なところ、そのパイロット版も授業で使えるという調子のものではなかった。むしろコンセプトからして、授業で使うということをあまり気にしてなかったといっていい。

 私は、パイロット版にそういう割り切りを感じて、そのチャレンジ精神を応援したかったし、放送版の最初に掲げられている「History is entertainment.」という言葉を徹底したほうが、むしろ印象深いものになるのではないかと思っていた。

 ところが、実際には製作者側も迷いを隠せなかったようだ。

 Webサイトに公開されている番外編は、先ほど指摘したように授業を意識して無難な造りへと変更してある。

 しかし、たぶん実際につくってみて、製作者としての面白みがなかったのだろう。申し訳程度に歌と踊りを復活させたのが第1回という感じなのかも知れない。だから中途半端さの残る番組となってしまった。

 歴史を題材にしたバラエティ番組は様々あれど、歌って踊るネタで最近人気を博しているのが「戦国鍋TV~なんとなく歴史が学べる映像~」である。

 こちらはローカルテレビ局の番組ということもあって、番組作りも面白いコンセプトで攻めているのが興味深い。先に頑張っているだけに、いろんな試みをして人気を集めている。

 「歴史にドキリ」はこの種の番組の新しい仲間として、先輩の良い部分を吸収して、自分の味を徹底的に出していくべきなのだ。あちらはバラエティ番組、こちらは教育番組。おのずと独自色も出てくるはずなのだ。

 そのためには徹底したエンターテイメントを追求しなければならないと思う。楽曲はもっと時間をかけるべきだし、番組を映像クリップと歌と踊り部分をくっつけたような造りにするのではなく、一つの作品にしなければ意味がない。

 それは授業で使うとか使わないとかそういう話ではなくて、「History is entertainment.」というコンセプトに正直であるのかということである。そういう突き抜けをしない限り、授業どころか、極上のエンターテイメントを通して歴史を知り学ぶという活動にすら届かないものになってしまう。

 残念ながら、NHKの教育番組には法律的なルールがあり、学校教育に利活用される番組でなければならない。

 そのため「授業で使われることを気にするな」といった趣旨の上記のような応援は、ほとんど意味をなさないのが現実である。

 たとえば、かつて小林克也氏が進行役として登場した「おしゃべり人物伝」のようにNHK総合テレビの番組としてなら、そういったつくりもあって良いのだろうけれど、学校教育番組としてその路線を徹底することは難しいと思う。

 そんな制約の中にも関わらず、この番組を作ろうと考えた製作者の人たちの茶目っ気に私は好感を抱いたし、こういうコンセプトの番組が一つは(全部は困るけど)あっても良いのではないかと思ったのだった。

 まぁ、面白くなくなった現在のテレビ番組の中で、80年代の深夜実験番組的な匂いのする番組がたまに出てきたことに嬉しくなったというだけなのかも知れない。

 でも、製作者も楽しい、視聴者も楽しい、そんな番組こそ、長く私たちの記憶に留まるのではないだろうか。そう考えれば、パイロット版から見え隠れしていた「History is entertainment.」というコンセプトを徹底するところに、本当に私たちを教育してくれる番組が存在するように思う。