ダイヤのプレゼント

 年内の授業も一段落した。出席管理などの雑務は残っているし,宿題は積み上がったままだが,一方で,「時刻表」の世界に引きずり込まれ始めていた。来年リリース予定の時刻表アプリ(ソフト)の作業をしているせいもある。

 東京暮らしをしている最中,街の移動に列車(地下鉄やJR)を頻繁に利用していた。縦横無尽にはり巡らされた東京の路線を乗りこなすのは難しい。路線に慣れても,乗り換えに配慮した時間行動をすることはさらにまた難しい。在京中は,よく遅刻をしたものである。

 いつもの通学列車の選択も悩ましかった。今いる駅から乗換駅へ行くのに利用できる路線が2つあったりすると,どちらのホームへ行けば待たずに乗れるかを判断するのに毎度戸惑った。駅では2つの路線の時刻表を並べて貼ってくれているけれど,現在時刻の確認と2つの時刻表の比較は面倒な作業であることに変わりない。

 それで,東京暮らしは終わったが,iPhoneアプリをつくるなら,かつての自分のために時刻表を比較できるソフトを作ってみようと考えたのであった。おまけ的な試みだが,アプリからの収益を,教育現場にICTを持ち込むための資金に充てようと考えている。


 
 そんなこんなで時刻表アプリの原型が完成したのだが,その設計をするため「時刻表」の先行研究レビューをしているうちに,なんとも奥深い時刻表の世界に魅せられ始めてきたのである(いつもの悪い癖の始まりである…)。

 日本の学術研究論文データベースであるCiNiiで「時刻表」を検索すれば,様々な文献が表示される。時刻表そのものの研究よりも,乗継ぎ系列探索システムの研究であるとか,運行情報提供システムとか,輸送計画設計システムなどの成果が目立つ。あとは都市計画や雑誌の記事・紀行文,エッセイなどが山のように並んでいる感じである。

 時刻表の本質を問うということは,すなわち「列車ダイヤ」の本質を問うこととなる。そうやって『列車ダイヤと運行管理』(交通新聞社)であるとか,『列車ダイヤのひみつ』(成山堂)のような専門家の著作をたぐり寄せたり,『時刻表世界史』(社会評論社)といった世界の時刻表をコレクションした文献などに触れてみた。

 それは情報デザインの実践史を追いかける作業にも思えたし,そうやって時刻とともに生きることを選択し続けていった私たちの「人生のダイヤグラム」に関する歴史の旅のようにも見えたのである。

 もうお気付きかも知れないが,これはカリキュラムの問題と無縁ではないのである。私たちがどこから由来して現在に至り,この踊り場での活動が今後にどのように繋がっていくのかを対象として考えるのが広義のカリキュラム観である。

 私はあれこれのダイヤをわしづかみにして,気の向くままにスジを乗り換えながら旅をしている人間である。一方で,多くの人々は自分に合った/自分の欲したスジをダイヤから選び出したり生成したりして人生を歩む。人は人のスジと交わり,そして追い越して行くこともある。一生交わらないスジだって膨大にある。

 そうか,私はそういうダイヤグラムの世界が好きなのか。あらためて,そんなつまらないことに気がついた。プログラミングが好きなのも,その現れともいえる。もっとも,自分自身のスケジューリングは二の次なのだけれど…。


 
 海外の時刻表を研究するために『トーマスクック・ヨーロッパ鉄道時刻表』も入手した。ロンドンを除けば,まだヨーロッパに行ったことはない。ロンドンからパリに向かうユーロ・スターという列車を眺めて,いつかヨーロッパ鉄道の旅がしたいと夢を見たことはある。

 来年か再来年には,ヨーロッパに出かけてみたいと思う。そのときまでには,自作の時刻表アプリでヨーロッパ鉄道の旅が支援できるように改良できたらと思う。今年のクリスマスプレゼントは,そんな目標(ダイヤ)が出来たことかな。

 ハッピーホリデー!