世紀の越境からゼロ年代の教育行政記

 イベント用の資料をつくるにあたって私自身の見落としがないかどうかを確認する意味も込めて小川正人著『教育改革のゆくえ ――国から地方へ』(ちくま新書2010.2/777円+税)を読んだ。

 駄文でも教育制度や教育法規に関する知識が今後ますます必要になることは繰り返し述べてきたところではあるけれども,この本は,20世紀末から21世紀・ゼロ年代あたりの日本の教育行政の仕組みと起こった出来事を綴っており,制度と法規がどのように運用されたのかが分かる内容となっている。学校教育現場を振り回している教育改革の中心部がどんな風に動いていたのかを知るには手ごろな書である。

 ジャンルとしては教育行政学であるし義務教育周辺に焦点が当たっているので,たとえば教育基本法改正,学習指導要領のはどめ規定見直し,高等教育政策など,その他多様なトピックスや議論については触れられていない。この本が,当時の教育改革の全てを扱っているとはいえないまでも,確かに書名にある「国から地方へ」という大問題を考えるには十分な材料である。

 さらに,この本の執筆が政権交代して間も無い頃であったことも関係して,事業仕分けの話や教員養成課程の見直し議論などについて十分言及がされていない。民主党政権の教育改革は,まさにこれから始まろうとしているのだから,それも当然かも知れないが…。

 

 幸い,この新書が扱っている範囲で自分の認識が見落としているものはなかった。けれども,いまだ多くの一般市民がこのような新書に描かれている事情や変化について知っているとは言い難いようだ。

 これからは個々人がこうした事情を理解して学校教育に関わっていかなければならない時代になっている。特に教育が専門ではない分野の人々にも鳥瞰図を理解してもらい,効果的な方法で教育分野に関わってもらう必要がある。

 もちろん,直裁的に関わる人もいれば,面倒な部分を回避して関わる人もいるだろう。それは個々人のアプローチだから選択に口出しするつもりはないけれど,全体としてそれぞれが自分の立ち位置をおおよそ把握しておくことは大事だ。

 たまに全国の教育ニュースを収拾してTwitterで流しているのだが,そうした作業の中岳でも日本全国の地方の実態が様々であることはわかる。と同時に,地方分権の難しさも感じる。

 もっとこの問題にいろいろ斬込んでくれる人たちを増やさないと…。