頼まれ原稿

 しばらく精神的には缶詰めになって原稿を書いていた。いくつか書いた文章を読んで依頼をしてくれた様子。何事もご縁だし,素性の分かりやすい相手だったので気楽に引き受けた。

 依頼内容は昨今の教育の情報化に関して書いて欲しいというもの。ちょうど関心もあったし,ここらで一度見返しておきたい事柄でもあったので,あれこれ情報のウラを取り直していたというわけなのである。

 字数制限もあるので,大した内容は盛り込めないから,調べた範囲は日本の教育の情報化と,韓国のデジタル教科書,そして英国のインタラクティブホワイトボードの周辺に限定した。

 そうやって,筋だけでも裏付けできる資料を特定しながら,大まかな流れがわかるように原稿を書いたのだが,ものの見事にボツ。

 「専門家向きではなく初心者にも分かるようにお願いします…」

 むむむ,初心者にも分かるように書いたつもりだが,これは一体どういうことか。いままでもたびたび自分の文章が堅いと思われていることは承知しているが,またなのか…。

 いろいろ考えて,駄文を書けばよいことに気がついた。要するに相手は物語を欲しているのである。正しい知識は余計なお世話なのだ。

 まあ,そうなると私にとっては仕事ではない。原稿料は後ほど断ることにして,いつもの駄文を寄附するつもりで書き直した。

 そうしたら,すんなりOK。

 ただ,あんまりプライド無く書いたものだから,最後の部分「教育研究者としての先生の忌憚の無いご主張を」と注文をもらった。ひとくさり懸念を書いて再提出したところである。

 読者層の限られたインナーコミュニティ向けメディアに載る記事なので,その人たちに伝わる形にしなければならないのは仕方ない。主義主張を曲げろと言われれば依頼を断るところだけれど,もし問題に関心を持ってくれる人が増えてくれるなら,小さな貢献仕事としては引き受けてよかったと思う。