その存在はあまり知られて無かったのかも知れないが,教育情報誌としては内容も体裁も高い水準を目指して頑張っていた『BERD』がこの3月の16号をもって刊行を終えることになっていた。引越し前の住所から最終号が転送されてきて,ようやく知った。
教育情報誌というのもいろいろあるが,『BERD』は研究者向けという扱いで発刊されていた。確かに調査・学術研究の成果を掲載することが主だったので,読者も研究者かそういった次元の情報を望む人々におのずと限られていたところはある。
しかし,実際にはもっと多くの人たちが目を通すべき雑誌だった。そもそも一般マスコミの流す教育情報は,安易なステレオタイプにもとづく論考か,パーセンテージだけ見てインパクトのある調査データの紹介で終わり,教育を深く考えるための材料を提示しているものは少ない。その点,『BERD』は,研究者らの研究成果を的確さを失わず読みやすく伝えていた,数少ない良心的な教育情報誌だった。
情報を伝達するための努力は特筆すべきものがあった。一つには,インターネット上に最新号のみならず,すべてのバックナンバーを公開しているという点。二つ目は,その紙面作りの質の高さである。
『BERD』はすべての論文や記事をPDFファイルとしてインターネット上に公開している。つまり無償で内容を見ることが出来るのである。そして申し込むことによって,印刷されたものを毎号送ってもらうことも出来た。
そのフルカラー印刷された紙媒体も質の高いものであり,本来であれば1000円程度の値段が付いてもおかしくないものだった。たぶん,それでも足りないと思う。
さらに『BERD』の紙面は,レイアウトとグラフィックに力を入れており,論文には必ず表やグラフなどの図版や執筆者のポートレート写真が掲載されていた。
研究成果において黒子ともいえる研究者自身を前面に出し,ポートレート写真を掲載するということは,一見すると無駄にも思えるかも知れない。しかし,発信者の姿をしっかりと映し出すことによって,研究成果の伝達に強さや勢いを持たせることが可能になる。そのために,ちゃんとプロのカメラマンに撮影をさせていたと聞いている。研究者が一番格好良く写真に収められている雑誌はどれかと問われれば,それは『BERD』だったと断言してもいい。
この2点が,何を意味しているかというと,編集者が内容面だけでなく,読んでもらうための雑誌を作るという点においても努力を怠っていなかったということ。それを「研究者向け」雑誌でちゃんとやっていたことが素晴らしかったと考える。
もっと多くの人に,この雑誌が読まれることをずっと願っていたが,残念ながら終刊とのこと。とにかく,関係者の皆様,大変お疲れ様でした。雑誌は終われど,そのコンセプトは立派だったし,また復活すべきと思う。
—
追記20090419:『BERD』創刊時のニュースリリース。創刊に至るための背景事情はいまだ変わらず,必要性はますます増大している。この雑誌を支える土壌や文化をつくれていない私たちの体たらくを厳しく反省すべきだろう。