減っていく日本の教育予算

Edubudget1999_2006_1
 日本の教育予算がどうなっているのか。どうもグラフなどで視覚化されていないとダメみたいなのでつくってみた。(教育らくがき20060125の駄文で示した表をグラフ化した。このグラフに関しては再利用や転載は自由にしていただいて構わない。追記20061030:2000年度のポイントを補正後の金額に基づいたものに修正した。)
 フィンランドの教育について講演を聴いたとき,ファンランドの教育予算は年々増加しているというグラフを見せられた。右肩上がりである。日本は右肩下がりである。それが事実の一つ。
 この図を見れば,普通は「教育予算を減らし続けていくような状況が,昨今の教育問題を引き起こしている要因ではないか」と考えないだろうか。無駄な予算を増やして問題が発生しているというなら,競争原理で効率を目指すというのも分かる。しかし,すでに予算は減少中。予算削減したことが悪い結果を生んでいるというのがこの図を見るときの素朴な理解じゃなかろうか。そんな素朴な前提もないままに声の大きい人達の意見で物事が進んでいる。
 ただし,このグラフをご覧になる際には,いくつかの周辺情報も合わせてみなければならないことを肝に銘じておこう。たとえば全体の国家予算はどう変化しているのか。児童生徒と教師の数はどう変化しているのか,などは気になるところではある(そんな注意書きしないで「予算減ってるんだよ〜!日本の教育は危ないよ〜!」と言いふらし回った方がいいのかも知れないが…)。
 
 
Edubudgetfinland
 ちなみにフィンランドセンター所長ヘイッキ・マキパー氏の講演(20061027熊本)で示されたスライドを引用させていただく。教育投資のグラフが右肩上がりなのが分かる。


 OK,教育研究者の端くれとして,もう少し丁寧に情報提供をしなければならないかも知れない。1999年以降のグラフを見るだけで事の真相は明らかにならないだろう。例えば児童生徒数に対する教育投資という観点やGDPに対する比率などの観点がなければ,国を越えた比較の手がかりにはならない。もっと細かく考えると,物価などの情報さえ必要だ。
 こうした情報を得るためには各国独自の統計資料を見るだけでなく,国際比較調査のデータにあたる必要がある。その代表的な情報源がOECDのリソースである。たとえばこの「Education at a Glance 2006 – Tables」には教育に関する基本調査データがエクセルファイルでリンクされている。
 (追記:文部科学省も『教育指標の国際比較』として,同データを紹介している。こちらの方が日本語で読みやすいか。)
 さて,この調査データを参照すると,日本の教育予算が減っているという事実の周辺にはその他の事実も存在することが分かってくる。2003年時点で見ると日本とフィンランドにおける児童生徒一人あたりの教育投資額は同水準にあること。
 しかし児童生徒数は,日本で減少傾向にあり,フィンランドで増加傾向にある。そのため児童生徒一人あたりの比較では水準が変わってないように見える。
 そこでGDP(国内総生産)における比率を見ることで,その国における教育の重さを計ってみる。すると面白いことが分かる。日本の場合,1995年と2000年に4.7%で,2003年は4.8%。OECD平均の5.9%と比較すれば平均以下。フィンランドは,1995年で6.3%,2000年で5.7%,2003年で6.1%となっている。
 日本の教育投資は褒められた状態でないにしても,前年踏襲のお役所仕事のおかげで日本の教育予算のGDP比が安定維持している点は,不幸中の幸いといったところだろうか。
 経済大国であり人材が資源であると宣う国ならば,もう少し褒められたGDP比の教育投資をして欲しいというのが,感情的本音だ(ちなみにアメリカと韓国は7.5%である)。様々な問題が全てお金で解決するわけではないにしても,お金で解決できるかも知れない問題が多いとしたら,投資しない理由を考える前に,投資する勇気を見せて欲しいと思うのである。

減っていく日本の教育予算」への3件のフィードバック

  1. Gorotsuky

    教育予算の大半は人件費が占めていると思います。人件費つまり教員の給与が減額されててきています。この5年間(昨年度あたりから)で4~5万円程度の減額がおこなわれます。これで調整額も撤廃されると更に教育予算全体は右肩下がりしていくはずです。教育予算の内訳からもみてみるのもおもしろいかもしれませんね。

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