教育界隈では,教員の資質向上が最も注目を集めているのかも知れないが,一般社会では家庭教育を市場のトレンドとして持ち出そうとしている。一番わかりやすい兆候は家庭教育関係の雑誌が立て続けに創刊されていることである。
小学館『エデュー』は試行期間を経て,とうとう月刊化した。『日経Kids+』も順調のようだ。朝日新聞社も触手を伸ばし始めたようで,いつものようにAERAの臨時増刊の形で『AERA with Kids』を発売した。
この辺の雑誌は,教育らくがき書庫であらためて比較分析するとして,この動きをどう考えたらいいだろう。一つには,子育て・マタニティという先行モデルの後追いであると考えることもできる。すでに赤ちゃんや幼児の教育に関する雑誌の方は満開状態で,マタニティ市場との連動を前提として一つの世界を成り立たせている。そうした乳・幼児の子育てを経た親が次の段階として継続して読む雑誌を用意するのは自然な発想であるし,そのことによって先行モデルを継承することが意図されている。
二つ目には,気がつけばそのようなセグメントの情報提供手段がすっぽり空いていて,かつニーズが高まってきたこと。義務教育段階の子ども達に関する情報を定期的に得る手段は従来までほとんどなかった。学校の出来事は子どもや保護者同士のネットワークから得るのが大半だったろうし,塾に関することも地域の評判がメインである。学習指導要領が変わるとか,日本の学力が低下しているとかの情報は,テレビや新聞で取り上げられるのを聞くだけ。子ども達を取り巻く環境がどうなっているのかを考えたりするメディアはありそうでなかったのである。しかし,公立学校の危機とか,子ども絡みの事件も多発し,子どもの教育や生活という問題は,注目すべき主題となった。それを扱うメディアのニーズも高まってきたのである。
その他にも,「親」の世代交代といった変化も絡むし,それゆえライフスタイルを気にするベースができてLOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)というものへの注目も無関係ではない。そうやって考えていくと新雑誌たちが詰め込む情報はバラエティに富むといえそうだ。
宗教的なベースによって安心感を得られたり,教育の在り方を考えることができる諸外国とは違って,日本はどこか曖昧だ。教育基本法の改正話を再びぶり返そうとする動きもあるようだが,結局何も議論できていないし,それが人々の意識のベースになり得るとも思えない。すると,日本人にとっては消費に結びつくムーブメントによって物事を進めていった方が性に合っているということなのだろうか。消費やマーケティングによって感動さえも演出できるご時世である。教育を「サービス」と言わずに「ニーズを満たすもの」に仕立て上げられるとすれば,日本にいる私たちはそれ以上の何を求めるのだろうか。