ラスト・ダンスは私に

 新春ドラマスペシャル「古畑任三郎ファイナル」を観た。古畑ファンにはたまらない三夜であった。それぞれのゲストもさることながら,「犯人とのやりとり」を楽しむドラマとしての「古畑任三郎」の集大成だったといってよいと思う。
 ストーリーの完成度やトリックの巧妙さを問題とする人もいるかもしれない。そういう人たちは,三夜の順番を逆にすべきだったのではないかと考えたりする。確かにトリックの巧妙さは第一夜が冴えていた。第二夜のイチローはゲストの話題性として,第三夜のほどほどな難易度を考えれば,そうなるのかもしれない。
 しかし,「古畑〜」はそういう類を期待するだけでは楽しめない。これが「〜ファイナル」であることもあわせて考えるなら,むしろどう考えても三夜の順序はこうでしかあり得なかった。物語の最後に,今泉も西園寺も排して,古畑と加賀美京子(犯人)だけでラストダンスを踊らせたのは,「古畑任三郎」というキャラクターに差し向けた「大人の淡く不器用な恋」というプレゼントだったのだと思えば,なんと感動的な最後だろうか。
 もちろん,「THE有頂天ホテル」を始めとして三谷幸喜ファミリーの顔でもある役所広司が主演する「Shall We ダンス?」へのオマージュ,というハイパーリンクとして楽しむのもいい。けれども,三谷幸喜の描く「ほろ苦い恋」の断片は,「王様のレストラン」「今夜,宇宙の片隅で」にも繰り返し出てくるモチーフであり,それこそキャラクターのやさしさが表れる最大の見せ場なのではないかと思う。
 恋は,どんなに淡く消えそうなものでも,人を盲目にさせる。鮮やかな推理に見え隠れする男の躊躇い。踊ることのできなかったラストダンスを踊ろうとする彼の胸中を思えば,それは「古畑」史上最も切ない物語であることを認めざるを得ない。エンドロールがじわりと滲んだ。