タイムスリップ

 正確な英語表現はtime-warpなのだが,そこはヘンテコ和製英語の強み,この一週間はまさに時間をすべったような日々だった。先週の木曜日の非常勤講義が終わってから時間の経過をほとんど感じず,明日はまた木曜日。
 秋休みのおかげで,研究会に出かけたり,家に閉じこもって勉強したりできる。こんな幸せなことはない。このまま秋休みがいつまでもいつまでも続けばいいのにと思いさえする。出来れば来年の今頃まで秋休み希望。幸せな時間に対する時間感覚はいつでも短い。だから気がつけば,一週間後の非常勤もびっくりするほど早く巡ってきたわけだ。
 もっとも,あれこれ手を出していると日程調整も難しく,肝心の学会大会に出席できず味噌を付けたが,仕方ない。わが野望のためには,若干の犠牲も覚悟しなければ。
 後期に始まる非常勤先も,とうとう4年目。その前にお世話になっていた非常勤先も4年をめどに区切りをつけたので,もしかしたら今の非常勤先もそろそろ卒業かなと考えてみる。流れのない水が淀むように,長く繰り返すとマンネリ化しかねない。わりと情報収集はマメで最新情報は反映しているつもりだけれど,そうと思っているのは本人ばかりってこともあり得るので‥‥。そんなことを考えているときに,別の大学の先生から電話。非常勤講師をお願いできないかというラブコールだった。


 この時期,来年度の非常勤講師確保が進んでいる。大学に限らず,義務教育段階や高等学校にもたくさんの非常勤講師が活躍していて現場を支えている。非常勤講師という存在は,名前から受ける印象とは異なり,教育現場にとっては常に必要な存在であることも真実である。
 大学に話を戻すと,この時期から来年度の非常勤講師を確保し,時間割などの調整を始めなくてはならない。いまお世話になっている非常勤先でも,来年度の非常勤講師依頼の書類がポストに届いていた。近日中に提出しなければならない。正直なところ,この時期に問いつめられると,とても困ってしまう。「そんな先のことは,わからねぇなぁ」と映画の台詞を吐きたくもなる。
 私自身の両極端な性格にも由来するが,計画する必要がある場合には不確定要素があるとダメな人なので,計画を立てること自体にかなりの労力を使ってしまう。でも実際にはそんな余裕がないものだから,逆にフレキシブルにしておいて,直前にババババッと決断実行しちゃうか,そのどちらかになってしまう。ふらっとどこかへ出かけるのも,後者の範疇。
 そんなわけで,来年度の非常勤講師を継続するとか,引き受けるとかの話は,不確定要素が多すぎて,どうにも安請け合いできる気分じゃない。だから毎年,後ろめたい気分になる。ただ,現実的には,本務校の時間割が激変することはないし,役職が大きく影響することもないので,そのまま継続するパターンに限っては問題ないのも本当のこと。申し訳ない気分で書類提出してるのは私一人の勝手な物語なのである。
 さて,そんなタイミングで新しい非常勤講師依頼が舞い込んだのは,とても嬉しいことだった。お声をかけていただけるというのは,些細なこととはいえ,大変光栄なことである。それはアカデミー賞候補に選ばれたくらい名誉なことだと私は思っている。そのご厚意に報いるのは当然のことだ。
 とはいえ,私はせっかくのラブコールを振らざるを得なかった。時間割の条件が合わないためだ。先ほど書いたように,大学の授業時間割は特別なことがない限り前年度踏襲である。その暗黙のルールに基づいて来年度の非常勤講師の更新だとかが展開する。それゆえ,私は相手の条件を満たせない。大変申し訳ない返事をお伝えするしかなかった。
 可能であれば,どんどん若手の人たちに教壇に立ってもらって,後人に物事を伝える楽しさと難しさを肌で感じてもらいたい。そのうち自分の勉強不足もわかってくるはず。それが自分の勉学を再構築する絶好の機会だと思う。私自身,もっと頑張らないと。