文月東京出張

 カリキュラム学会が千葉・神田外語大学で行なわれるのに合わせて金曜日から東京に出かけた。一ヶ月前にもお仕事のお呼ばれで東京に出かけたので,あまり間を空けずに東京行きが続いたことになる。実力ある先生方は,分単位で東へ西へと仕事で奔走されているのだろうが,私のような傍流逆流研究者は月単位で出かけられるだけでも贅沢なのだ。

 先回は朝っぱらから自転車漕いで駅へ向かうところから始まったが,今回はお昼のフライトなのでバスに揺られて駅そして空港へと向かった。ところが羽田からの飛行機に出発の遅れが発生し,私が乗る折返しの飛行機も影響を受け出発遅延。珍しく徳島空港をじっくりと眺めることになった。

 空港内には近所の小学校の児童が描いた壁新聞やお手紙が展示されていた。どうやら空港見学した成果とお礼らしい。地方空港の仕事や飛行機に運行に関わる話など,調べたことを文章や挿し絵,クイズにしてまとめていた。
 その中に「徳島空港は一年以内に無くなる」というクイズがあって,「ははは,さすがに×だろう」と思ったら正解は「○」。え〜?!と思ってふにゃふにゃの文字の解説を読むと,どこかへ移転して現在の施設は自動車教習所になると書いてあった。その移転先がどこなのかをあちこち調べたら,正確には滑走路が増設されるに伴ってターミナルも新しいものが少し離れたところに出来上がる予定なのだと分かった。

 そんな子どもたちの壁新聞も,フライトが時間通りだったら通り過ぎて見もしなかったかも知れない。偶然が呼び寄せる嬉しい巡り合わせに身を任せる旅の始まりである。

 羽田に着くと,まずはN先生との打ち合わせ。飛行機が遅れてしまってお待たせすることになったが,久しぶりにお会いして,あれこれ宿題の成果をご報告する。めぼしい仮説を提示することはほとんど出来なかったが,お互いの考えていることのすり合わせが出来たので,今後しばらく継続してストーリーを考えることになった。

 そこから急いで東京大学へ。午後5時までに教育学部の図書室で文献コピーをしたかった。この調子だと到着は4時半,文献を探してコピーする余裕は30分である。目的の文献は検索済みだし,ある程度勝手知ったる場所だから,予定通り間に合えば心配ない。とはいえ,面倒なことを避けるためには,なるべく早くたどり着き,慌てずに作業したかった。

 幸い,教育学部図書室での文献コピーは無事終了し,とりあえず福武ホールにとことこ歩いていく。研究室に行こうかどうか迷ったが,今回は手土産買うのを忘れてしまったし,「また来たんですか」と思われるのも悲しいので,前回会っていなかったHさんの顔でも見て帰ろうかと思ったら,いろんな人に発見されて,結局研究室にもお邪魔した。

 あれこれみんなの会話に耳を傾けつつ,事のついでに研究室の文献もコピーして,まあ,みんな相変わらず元気そうだったので,ホテルにチェックインするために失礼することにした。次回は,ちゃんと手土産を忘れないようにしよう。

 ホテルにチェックインして,すぐさま出かける。向かった先は新宿。前回は池袋ジュンク堂であったが,今回は新宿ジュンク堂と新宿紀伊国屋が目的地。いつものように本漁りである。最近は統計処理環境”R”について知りたかったので,新しいところの解説本をいくつか買ってみた。紀伊国屋では,『教育社会学研究』の最新号を見つけた。特集が「質的調査の現在」ということで,教育社会学分野における方法論の議論を知るのに面白そうだった。

 その後,秋葉原へ移動し,ヨドバシカメラへ。子どもたちが喜びそうなiPhone用のケースとタッチペンを漁った。iPhoneを子どもたちに貸し出すときに,カラフルなケースがあったほうが見た目にも機器保護のためにもよいと思われることと,実際の操作を指だけでなくニンテンドーDS風にタッチペンでやってもらうにも悪くないと考えたからである。これも少しずつ進めなくては…。

 ふらっと寄った書籍の階で『UNIX Magazine』最終号を発見したり,タワーレコードでCDを買ってみたり,レストランの階で遅い夕食を食べたりして,ホテルに戻った。

 翌日は朝から京葉線に乗り海浜幕張駅へ。東京ディズニーランドに行く観光客も利用する線なので,途中,若い人たちや家族連れがわんさか乗ってくる。と思ったらわんさか降りていく。海浜幕張に着く頃には空いている。

 日本カリキュラム学会は今年で設立20周年。今回はその記念大会である。私にとってメインの所属学会なのだが,東京暮らしの間はずっとお休みをしていたので,4年ぶりの大会に参加となった。

 学会大会は,良い意味でも悪い意味でも変わっていなかった。

 この学会は,それほど大規模な学会ではないので,大会規模も把握できないほどではない。現場の実践家に対してもオープンだし,学会を構成する主要なメンバーの先生方も柔軟性を持ったオープンな方々で,それがこの学会の良い持ち味になっていると思う。その点はいまでも変わっていない。だから,私は基本的にこの学会が好きである。

 でも,学会での議論も相変わらずなものが多かった。確かにカリキュラム研究の守備範囲は曖昧かつ複雑で,研究方法の議論に関しても,一筋縄でいかないところがある。どちらかといえばコテコテの文系学会なのだが,そうした側面がカリキュラムに関する問題を外部を巻き込んで行なうことの壁にもなってしまっている。

 そして,今回久しぶりに参加して自分自身驚いたのは,確実にみんなが年をとっているということを感じたことだった。そんな身も蓋もない感想を言ったら「そりゃみんな3歳年取ったんだから」と笑われたけど,でも,なんとなく,これから学会はどうなるんだろうと思ったら,少し不安というか,寂しさを感じたのであった。

 長らくご連絡しなかった先生方にお詫びをかねて近況報告。徳島に飛んで働いていることをお知らせした。皆さん,一様に「よかった」と言ってくださった。学部の師匠と大学院の師匠にも久しぶりにお会いした。お二人とも,お仕事大変そうではあったけれども,それなりに元気でいらした。

 二日目は朝から自由研究発表。興味深い発表をあれこれ聞いて,カリキュラム学会の雰囲気をまた思い出す。また研究発表できるように,こちらの分野も思索を進めたいと思う。

 午後の総会や国際記念シンポジウムにも出席したかったが,徳島に帰る飛行機の時刻や,その他のやっておきたい事との時間配分を考えた末,残念ではあるが午前中でスパッと都心に戻ることにした。国際記念シンポジウムは是非ともじっくり聞きたい内容であったのだが,開始後しばらくして中座しなければならず,だったら最初から諦めることにした。

 その代わり,出かけたのはお台場。実物大のガンダムを一目見ようと思ったのであった。あれこれ勘案した結果,見逃して残念に思えるのは,期間限定の実物大ガンダムくらいという結論である。

 ただ,国際展示場を通るゆりかもめ線の中から「東京国際ブックフェア」が開催されていることが見えた。というわけで,ガンダムを見た後に,ブックフェアに向かうことになった。

 東京国際ブックフェアには,東京に暮らしていながら行ったことがなかったので,この偶然の巡り合わせの機会にぜひ見ておこうと思った。とはいえ,残された時間は一時間程度。駆け足でブースをめぐる。

 同時開催されていたのは「学習書・教育ITソリューションフェア」だった。書籍の見本市だとばかり思っていたが,実際には,ICT機器の展示や教育ソリューションが多数展示されていた。まるでNEW Education Expoみたいな感じだが,こちらは某社の色がないだけに,また違ったメーカーの展示があった。他分野で実績のあるシステムを教育分野に持ち込んだ会社や,小さな開発メーカーが販社と組んで展示しているものなど大変興味深かった(関連記事)。

 来場者に家族連れも多いらしく,幼児関連や教育関連の出版社展示ブースはにぎやかだった。そのことが衝撃的でもあった。ああ,ICT教育の世界って,こういうところに集まる人達にまるでアピールできていなかったんだなと思った。

 本当は,ブックフェアに来るような一般人や家族連れの層にこそICT教育の重要性や学校への機器導入の必要性をPRして,地方自治体を見守る住民の意識を高める必要があるにも関わらず,ずっと関係者の閉じた世界で回していたのかも知れない。今回初めてブックフェアに参加して,その光景を見てそう思ったら,ゾッとしたのである。

 教育関連のイベント・セミナーのリストを見ても,現在,情報教育分野で活躍している私たち馴染みの名前はほとんど出てこない。本当に,これではまずいと思えた。ショックである。

 たった一時間程度ですべては見られなかった。それでも興味深い展示をしているところには立ち止まって担当者の話をじっくり聞いた。どんな考え方やデザインの仕方で商品を提供しようとしているのか,なるべく瑣末な商品知識の説明は省略できるように,こちらも適度に高度な返答をして話をどんどん進めていく。とっても充実したやり取り。

 悔しいながら,人文専門書と洋書バーゲーンコーナーには行けなかった。悲しい!

 でも下手に散財せずに,むしろブックフェアの奥深さをグッと味わうことが出来て,密度の濃い一時間になった。実物大ガンダムありがとう。君が呼んでくれなきゃ,ブックフェアにも行けなかった。

 名残惜しいが,そろそろ東京を離れるために羽田へ。

 いつもなら建物から離れたところに飛行機が停まっていて,搭乗するにはバスで移動しなければならないのだが,この日は珍しく保安ゲート真ん前の搭乗口に飛行機が停まっていた。しかも座席数より多く予約を受け付けたらしく,席を譲ってくれる人募集していた。

 高松行きに変えるか,翌日の徳島行きに変えるか。どちらも協力金が出るし,ボーナスマイルもでる。翌日を選ぶなら宿泊ホテルも手配してくれる。個人的には,ぜひ協力する体験をしてみたかったのだが,さすがに翌日は朝から授業。ボーナスマイルに目がくらんだ理由で休講するわけにはいかないので,協力を諦めることにした。

 夕方の徳島へのフライトは,夕焼けと富士山の景色が素晴らしい。今回はちょっと雲が多かったのだが,それでも,やはり良い雰囲気のフライトだった。幾度か利用すると,見たことのあるキャビンアテンダントさんと乗り合わせることもある。今回は,わりと好きなタイプのアテンダントさんが乗務していたので嬉しかった。もっともこのフライトも一時間しないうちに終わり。飛行機が着陸すれば,日常の再開である。

 本当はもっと多くのことを考えたり,やったはずだが,短縮して書くと,こんな感じの出張である。さてと,あれこれの仕事を頑張って片づけますか。