お盆休みの散髪

 昨日からやっとお盆休み。正確には職場の完全閉館期間というだけなのだが,そうでなければ校務が延々と続くことだっただろう。いま携わっているのは職場内の情報ネットワーク整備工事である。立ち会いなどをしなければならない。
 本当は専任の情報技術担当職員がいて,その人がすべき仕事だが,そんな贅沢な雇用は出来ないので,私が肩代わりである。給料二人分欲しい所以である。
 それでも昨日は家に持ち帰った宿題をして潰れた。今日から自分のための時間と思ったが,放ったらかしにしていた家事をして,散髪に出かけたのと,少し時間を過ごしただけで終わりになりそうだ。明日からモードを切り替えて勉強をしなければ。


 散髪をしようと思い立つ。今回もいつもの店のつもりで家を出たが,たまたま家のすぐそこにあるヘアサロンの窓越しに店の女性と目が合った。何気ない一瞬だったので,そのまま歩いて通り過ぎたが,思い直して引き返した。
 というのも,前々から店を変えたいと考えていたからだ。いつもの理容室は男性客がメインだし,店員もほとんどが男なので入りやすく,大きな不満もなかったので利用し続けていた。顧客カルテに基づいて,いつも通りにやってくれる安心感もあった。
 しかし,それ故にマンネリ化もしてきたし,どうも対応が型通りで,文句を言わない分だけ舐められ始めているような気もしていたのである。「テキトーにやっておけばいい客」に分類されている気分になってきたわけだ。
 そんなことから,常々新たな店に挑戦するチャンスをうかがっていたが,今日がその良い機会だったのである。家のすぐそこにあるヘアサロンの扉を緊張しながら開ける。「男性もやっていますか?」もう初歩的なことがわかっていないから,こう聞くしかない。「はいもちろんですよ」と言われて「ぜひ挑戦したいのですが」と告げて店に入る。
 女性ばかりの職場に勤めているというのに,こういう女性向けの空気が漂う場所には馴染めない。おのぼり小市民になりながら,しばらく席に座って待っていると,慣れた雰囲気の若い男子が堂々と入ってきて斜め前の席に座る。なんか完全に負けた気分。そして次に若い女性がやってきて,これまた当然普段事のように座る。そしてまた別の女性もやってきて。私は経験者に完全包囲されてしまった。「わ,わたしだって慣れたものです」という風にすましてじっとしているのが精一杯。
 「はやしさん,お待たせしました,どうぞ」と呼ばれて心で苦笑いしながら,誘導された先は,すぐそこの椅子。え?ここでカットするの?と思いながら座ったら,「本日担当します○○です。髪の方を見させていただきますね」と頭と髪に触れられた。そしてどんなスタイルにするかの確認をした。
 そしたら次にガウンを着てもらいますと着替え室に案内される。そこで先ほどの慣れた若い男子がガウンを着て現れる。なんか見下したような視線に再度敗北感を味わう。「くそぉ,若いうちからヘアサロンだぁ?二人分働いて,一人分の給料稼ぐようになってから来いってんだぁ,若造が!」と心で反撃する。
 服の上から薄手のガウンを着るのは,服を汚さないためだ。もともと女性向けのサービスなのだろう。まあ,この辺から社会勉強のつもりでいろいろ楽しむことにした。
 私が住むこの区域は,この地方でも有名な美容店激戦区。大小の美容室やヘアサロンがあちこちにあって,技術やサービスを競い合っている。この店もそれなりに大きな規模。スタッフも多いし,仕事はチームで展開している。それでいて,対応は気持ちがいい。さすがは激戦区で生き残っているだけある。
 担当してくれたスタイリストさんは女性。とても丁寧にカットしてくれたし,おしゃべりも優しい感じで楽しかった。眉も整えさせてくださいと提案してくれたので,喜んで応じた。考えてみれば,眉の形をケアした事はない。「眉一つで印象が変わりますからね」という言葉はもっともだ。
 そんなこんなで,入店したときの状態と比べて,とてもすっきりした。しかもさすがはスタイリストと名乗るだけあって,スタイリングの仕上げ方と見せ方が上手。「コンタクトにしたらイケメンですね」と言葉もお上手。違った体験ができた事も含めて大満足だった。
 「カラーもいれると軽くなって,また雰囲気も変えられますよ」と言われた。職業柄,髪を染めるのはちょっと抵抗感もあるし,特に必要性も感じてないが,生きているうちには挑戦してみたいものである。もっとも抜けないのであれば,そのうち白くカラーリングするのではないかと思うけれど‥‥。