ああ,インターネットリサーチ

 年内の非常勤講義も今日を入れて残り2回。筆記試験かレポート課題かで迷ったが,今回はレポート課題で考えを深めてもらうことにした。課題の発表と,講義内容も佳境へ。まあ,それについてはまた取り上げよう。
 帰りはふらりと本屋へ。『AERA』を立読みすると12/20号に「徹底調査 わいせつ行為,生徒との関係/教師の性とストレス」なんて記事が掲載されている。トップ記事の「ニート親」も気になるけどね。とにかく,こういう記事がもっともらしく掲載されるのは困ったものだ。読解力の乏しさが見え隠れしている国で,こんな乱暴なままの記事を多くの人々にさらしてみても,誤解以外の何が出てくるというのだろう。そもそもネット調査は胡散臭い。
 記事の扱うテーマ自体は,個別の事件の程度は様々としても,昨今目立った問題として考えなければならない事柄であることは確かだ。けれども,表だろうと裏だろうと娯楽産業が充実してきたと考えられている世の中で,いまだ「教師の性とストレス」をテーマにしなければならないのだとしたら,いったい何が問題の核心なのだろう。


 今回の「徹底調査」なるものの正体は,ポータルサイトinfoseekがサービスを提供している「infoseekリサーチ」を利用したものだと考えられる。infoseekマークを掲載すれば,その他は免罪されるとでも思っているのか,調査を理解するために必要な基礎データは回答者の年齢,性別,職業と数しか誌面には書かれていない。
 infoseekを見ると,リサーチに協力してくれる登録モニター数は40万人程度。そのうちの0.7%が教職員という情報が正しければ,2800人程度の教職員の中から今回323人が回答したことになる。まあ,それはいいとしても,回答者の内訳はそれぞれの調査で恣意的に見せられているだけだし,全国各地でどのように分布しているかもわからない。
 「トリビアの泉」をご覧になっている皆さんはご承知の通り,何かを調べる際の統計的な信憑性を得るための条件は,調査内容毎に違っているし,全国を対象とするならば,各都道府県でそれなりの数を抽出しなければならない。それをしてなお,信憑性は確保されないのが現実である。とにもかくにも細心の注意のもとで結果の分析をしなければならないのが社会調査なので,私たち素人は手を出すべきではない。
 で,徹底調査も厳密に言えば信憑性に疑問符が付くし,豊富に掲載されているように見える円グラフをいくら組み合わせても,何も証明したことにならない。そもそもインターネット・リサーチに協力する母体の特性については,何の検証もされていない以上,これらの数字を信じることすら馬鹿馬鹿しいことである。
 けれども,厳密さがなく信憑性に欠けるとしても,調査結果がたまたま現実の傾向を都合よく示すように出てしまうことはある。結局,記事としての体裁を整えるにあたって,裏付け材料のひとつとして用意するという目的において,インターネットリサーチの価値が出てくるということか。とにかく注目してほしい,話題を集めたい,記事を成立させたいというニーズには適しているのである。こうして読み手にメディアリテラシーを持てという責任転嫁にも似た要求が押し寄せる。プロがプロとして仕事をしなくなったツケを,どうして素人が背負わなくてはならないのか。理不尽な世の中だ。
 ん?それともあなたはこう思うのだろうか。プロがプロとして仕事ができなくなってきたのが今の世の中なのだと。社会的な網の目が粗い時代は自由度の高さがプロにとってプロらしくあれたが,社会的な網の目が細かくなり,いろいろな縛りがかかるようになるとプロらしく振る舞うことが逸脱にもなり,プロらしい仕事ができなくなったと。
 「教師の性もストレス」を問題とするAERAの記事は,「社会全体の問題」と解する立場を「被害者が弱い立場にある」教育現場の特殊性を過度に注目させることによって覆い隠そうとする。こんな乱暴な記事に付き合わないといけないかと思うと気が重たい。本当に弱い者の立場に立ちたいならば,こんな乱暴な記事を書くべきではない。

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