Webから日本の教育に出会うとしたら

 日本の教育,これをゼロから知ろうと思った立ち位置で情報を眺めたらどうなるのか。このご時世,有り難いことに手っ取り早くインターネットで情報収集が出来るので,Webサイトを手がかりとして考えてみた。
 教育を管轄する政府機関があることは,だいたいの国で共通している。日本なら「文部科学省」がそれだ。米国にも,英国にも,仏国にも,中国にも,韓国にもそれに相当するものがあるだろう。
 というわけで,それが分かっているなら,いきなりその機関のWebサイトに飛んでみるのもいいが,ここではまず2つの道筋を確認しておこう。(1)検索サービスで「教育」とか「学校」を調べる,(2)その国の政府のポータルサイトから探す,である。

(1)「教育」「学校」をググってみる。2007.1現在
教育」→asahi.comの教育ニュースサイトがトップで,続いて読売新聞,そしてウィキペディアの教育の項目と続く。そうなるとウィキペディアへとジャンプするルートが有力か。そこを経由して文部科学省へのリンクも発見できる。
学校」→i-learn.jpというところと,JSという代理店の2つの学校検索サイトに続き,ウィキペディアへのリンクとなる。ウィキペディアの学校という項目には文部科学省へのリンクはない。
(2)電子政府の総合窓口を利用する
 文部科学省のWebサイトを探すよりも見つけるのが難しいかも知れないが,「e-Gov」という行政ポータルサイトが日本にもあるので,それを利用してみよう。実情がどうあれ,位置づけとしては日本の行政の玄関サイトのはずである。
 ところが,このサイトの使いにくさや内容の乏しさといったらない。特に「教育」や「学校」について知りたいと思ったとき,どこをたどればいいのか全く見当がつかない。試しに「全府省ホームページ検索」という検索欄を使って,2つのキーワードを検索してみる。するとどうなったか?
「教育」→最初にあげられたのは農林水産省へのリンク。文部科学省のリンクが現れるのは146番目である。
「学校」→最初にあげられたのは気象庁へのリンク。文部科学省のリンクが現れるのは105番目である。
 検索欄ではなく「サービスを利用する」欄から教育に関する情報を得ようとすると,まずリンクの選択に迷う。関係するのは「生まれる」か「住む」か「資格」か,「その他全て」であろうか。しかし,ここでは何も得られない。文部科学省にも連れて行ってくれない。
 というわけで,文部科学省へのリンクは「各府省・独立行政法人等」というリンク一覧ページにジャンプしてから,文部科学省の名前を探すほかない。電子政府が泣いている…。(もっとも,このポータルは何かしらの手続きを伴う事柄に関する情報を提供するという趣旨でつくられた経緯が強い,ということも使えない理由の一つである。)

 まあ,文部科学省でなくてもいいが,いまのところ日本の教育について調べるのに頼りになるのは「ウィキペディア」という,お寒い状況であるらしい。
 ちなみに(最近マイブームになっている感のある)英国の場合だと,「Directgov」という公共サービスのワンストップ・サイトがある。アクセスしていただければ一目瞭然だが,一番最初のページの始めの方に「Education and Learning」(教育と学習)の項目があることに注目していただきたい。学校というキーワードさえ見える。この姿勢の違い!
 そしてクリックしてみれば,さらにその語りかけるような情報提供の在り方に感心することだろう。日本と明らかに違うのである。
 じゃあ日本に目を戻して,「文部科学省」のサイトはどうだろう。餅は餅屋だ。きっと教育と学校について英国の行政ポータルが提供するくらいのことはしているだろう。
 と思ってアクセスすると,眼に飛び込んでくるのはたくさんのリンク。さて,どれをクリックすべきかじろじろ見ると「教育から調べる」というボタンが見つけられるのでクリックしてみよう。ちなみに右上に「教育」という文字のリンクもあるが,同じリンク先である。
「よりよい教育を目指して」
「幼児教育・家庭教育に関すること」
「小・中・高校教育に関すること」
「大学・短大・専門教育に関すること」
「青少年の健全育成」…と続く。
これなら知りたいことが分かるかも知れない。
 たとえば,私が子を持つ親で,自分の子どもが通う学校教育について知りたいと思う人間だったら…。いろいろページを見て回ってみたが,残念ながら,分かりやすい情報はどのリンクからも得られなかった。
よりよい教育を目指して」→教育基本法に関する項目が出て,続いて義務教育の構造改革である。これは保護者向けじゃない。
幼児教育・家庭教育に関すること」→幼保連携の認定子ども園について,知りたいときもあるだろうけど…。子育てを応援しますページもお役所文書の一覧表で,ちっともやさしくないし応援してもらっている気がしない。
小・中・高校教育に関すること」→学習指導要領,確かな学力,教科書,中高一貫教育…。時事問題を調べるなら有用な情報提供をしているのかも知れないけれど,やっぱり保護者にとってはお役所文書にしか見えず,読んでられない。
 以下略…。
 というわけで,国レベルの教育関連サイトの入り口がこの有様である。けれども,どうしてこんなに国がぶっきらぼうなのかというと,実は理由がある。実際の学校教育が地方自治体に任されているというのが日本の教育制度だからだ。
 もしも保護者が具体的な教育の情報を知りたいなら,国レベルではなく,自治体レベルで調べた方が現実的なのである。ただし,各自治体の体力によって,どれほど教育に関する情報を提供しているかは異なってくる。充実しているところもあれば,国より酷いところもあるだろう。これがこの国の教育情報の提供具合なのだ。
 たとえ地域の学校教育は地方自治体が責任を持っているとはいえ,それを大元で支えるのは国の仕事である。そして文部科学省は国民に教育情報を提供する義務がある。お役所文書を公開することからもっと踏み込んで先へ進まないと,国民の信頼を得ながら行政をすることはできない。特にいまの文部科学省は,もっと国民を味方に付けるべきじゃないかな。