文月13日目

 すっかり乱れた生活を整えるべく,早起きからスタートした。構想を練るため文献に触れたりするが,午前中から暑さが厳しくてダラッとしてしまう。午後は仕事に関係のない調べ事のために出かけ,早稲田大学に立ち寄って恩師に会い,十何年ぶりに「歯医者さん」に出かけ,溜まった洗濯物を一遍に片付けるためコインランドリーを利用した。
 というわけで,歯医者さんを訪ねたのである。どこか悪くなった,というわけではない。一体全体,私の歯はいまどのような事態になっているのかを知りたかったからである。短大に勤めた9年間,春の定期検診と潰瘍で苦しくなって病院へ駆け込んだ以外は,病院のお世話になる余裕もなかった。特に歯医者は,高校時代に通ったきり,15年くらいは縁がなかったということになりそうだ。さすがに「一度は見てもらいたい」という気持ちになってくる。
 退職して,やっと時間が空いた(そりゃそうだ)。いまさらどの面提げて歯医者に行くべきか困ったが,とにかく家のすぐ目の前にある歯医者さんに出かけることにしたわけである。「初めてなんですけれども…」と受付に告げて,「とりあえず歯を診てもらって,クリーニングしてもらえたら…」ということにした。
 歯のレントゲンを撮り,下顎側の歯石など「キュイ〜ン」と削り取る作業が始まった。もう大人ですから,ドリルの音には驚かないが,十何年間に溜まった歯石を取り除く作業の大変さみたいなものには,口をガバ〜っと開けながら苦笑いしてしまった。助手のお姉さんにこういう姿を見られるのは恥ずかしいが,彼女もレントゲン失敗して私は放射線を2回浴びる羽目になったんだから,まあ,お相子ということで…。
 それで,今回は下顎側だけで終わって,次週上顎の歯石除去と今後の措置について決めることになった。どうも下顎の親知らずのせいで虫歯ができているらしい。が〜ん,とうとう虫歯ですか。こんな不摂生な生活だから,いつかはそんなことになるだろうと思っていたが,やはり…。とはいえ,むしろ歯医者に来てよかった。何やら,いろいろ治療され始めることになって,ちょっと抵抗感はあるが,この機会に処置しておかないと。感謝感謝。
 そして夜,大量の洗濯物をバッグに詰め込み,街を歩き回る1人の男。しばらくして小さな喫茶店に併設されたコインランドリーにたどり着いた。さて,どの機械で洗濯しようかと辺りを見回す男に,おばさんが出てきて「こっちは小さいの,あっちが大きいの」と声を掛けた。男が「この辺は他にコインランドリーないですか」と訪ねると,「みんなやめちゃったからね。ドロボーが多くて…。あたしもやめたいんだけどね」と言葉が返る。
 「あんた,ワイシャツと下着洗うの?だったら小さいので分けて洗った方がいいよ」と,いつの間にかコインランドリー利用のレクチャーが始まった。「まずね,先に200円入れて,洗濯槽を洗うの。それから洗濯物入れて」「あんまり洗濯物が少ないと,こすれないからキレイにならないのよ」「女性ものの下着はドロボーされるんだけど,男物はだれも盗らないから,30分くらいブラブラしてきてもいいよ」「ワイシャツはね,最初に液体洗剤ぬっといてからもってくるといいわね」「乾燥機から出すときは一度洗濯物をパンッとひろげて熱を逃がしてやるとシワになんないから」とかいろいろ。
 郷に入っては郷に従え。年長者のアドバイスは有り難く受け止めよ。コインランドリーのオーナーらしきおばさんの指示に従いながら,男はなんとか洗濯を終えた。汗だくになりながら洗濯をしたのだが,その汗だくのTシャツは,とりあえず家で洗うことになるのか。「ありがとうございました」と告げて,男は洗濯物を再び抱えて,帰路についた。
 いまどき安価な洗濯機はたくさんある。コインランドリーの需要は減っていると考えるのが妥当だろう。それでもコインランドリーに頼る人々は少なからず居る。そんな人達のために,コインランドリー頑張れ!