マイクロソフトの不穏な空気

 このところマイクロソフトがおかしい。ん?おかしいのは昔からだし,そういうおかしさに嫌気がさしてWindowsから距離を取ってきたのもあったが,それはそれで,そんなのがマイクロソフト・ウェイだと思えば済んでいた。
 ところが,このところマイクロソフトはビル・ゲイツの引退というわかりやすいニュース以外にも,肝心の主力製品であるWindowsやらMS-Office製品の次期バージョンに関して,雲行きの怪しいニュースが飛び込んでいるのである。そうなると憎たらしい相手とはいえ,元気のない姿を見るにつけ,「ちょっと大丈夫?」と思わず心配してしまうのである。
 それはたとえば,次期製品Office2007のリリースを(これも延期されてそうなったのだが)2006年10月を予定していたのに再度延期で2007年の早い時期にと変更になったしまったこと。ドラスティックな操作体系の見直しをして,人々を不安にしているだけに,あるいはこれは嬉しいニュースなのかも知れないが,そんな調子で大丈夫なのか?と思う。
 そしてもう一つはWindows Vista。次世代OS製品としてかなり前から開発が続けられているものだ。本来であれば,2003年にリリースされているべきだったとも言われるが,現在は2007年初めにリリース予定されている。
 こういう新しいOS製品は,盛り込まれる予定の様々な目玉技術というものを何年も前から事前にプレゼンテーションして,いろんなソフトを開発する他社の技術者に理解してもらって活用してもらおうと準備する。Windows Vistaも2003年あたりから「今度の新しいWindowsは,こんなに凄い技術が搭載されて,素晴らしいパソコン環境になります!」とたくさんのアドバルーンを上げていた。もちろんその時点で完成していないものもあるが,その実現を見越して,パソコンソフト業界は勉強を続け,自分たちのソフトで最新技術を使えるように準備するのである。
 ところが,派手なアドバルーンを上手く実現できる場合もあれば,風呂敷を広げすぎて実現困難で挫折という技術もあり,これがなかなか大変なのだ。
 問題なのは,Windows Vistaというのが「次世代OS」という事を強調しすぎて,結構無理難題をたくさん抱えていたことである。そして先日,この新時代のOSで一番の目玉技術と考えられていた「WinFS」という技術プロジェクトが,ひっそりと中止宣言して大問題になっているのである。
 私はWindowsの技術者ではないので,正確なことは書けないが,要するに「WinFS」技術は,「Windowsをデータベースにしちゃいましょ」っていう技術なのである。
 パソコンがある程度便利になってきて,そしてインターネットからたくさんの情報を得られるようにもなってきて,たくさんのデータを管理する時代になっている。皆さんの使う頻度や程度がどうあれ,パソコンでは無数の情報が管理されているのである。そういうのを細かく見ていくと,重複した情報というかデータが存在したりする。編集しているうちにたくさんのバリエーションが増えたワープロファイルとか,住所管理ソフトとか,メールソフトとかいろんなソフトで管理している知り合いの住所とか。とにかくコンピュータの中を調べていくと,似たようなデータがいっぱい。
 そこで「Windows自体がデータベースになっちゃえば,こういう重複したり似たりしているデータを整理して,効率的に使えるんじゃない?」と考えた技術者がいて,その基礎技術として頑張っていたのがWinFSである。
 もしWinFSってのが実現すると,Windowsで動くソフト全部,データベースの機能を使えて,しかもソフトの違いにかかわらずお互いの情報を効率的に利用できるので,「ワードファイルと一太郎ファイルが混ざってダメじゃん」ということを心配しなくてもよくなるのである(ちょっと嘘ついてるけど…)。
 だから,ソフト開発をしている技術者の皆さんにとって「WinFS」って技術こそWindows Vistaの肝であり,それが実現するんだったら,Windows万々歳,という感じだったのである(まあ,そこまで脳天気な開発者はいないけど)。
 ところが,先に書いたように,この「WinFS」がひっそりと中止宣言。正式発表ではなく,マイクロソフト開発者のブログで,「計画を変更します」と説明する形で明らかになった。
 この「ブログで明らかになった」というところがマイクロソフトにおける不穏な空気を醸し出しているところで,もしかしてこれはWindows Vistaそのものの開発やリリースに関しても,何か悪いニュースが控えているのではないかという憶測にも繋がってしまうのである。少しでも世間のショックを和らげるための工作が展開しているような気もするのだ。
 Windows Vistaのベータ版についても,ベータ版といいながらまだまだ完成の域には達しておらず,開発現場では大変な努力が展開しているらしいことも伺える。これが経営サイドと開発サイドの乖離という事態を示しているのではないことを祈ってあげたいが,もしそうだとすれば,巷でいわれているソニーのような状態になって,もしかしたらマイクロソフトに大きな陰りがやってくる可能性も否定できない。
 WindowsやOfficeが新しくなることで,完成度が高いか低いかのいずれにしても,振り回されてしまうのはいつも消費者,エンドユーザーだということ。距離を取っている人間としても,ちょっと気になる空気である。