いつか通る道-7

 この日がやってきた。9年間お世話になった職場を離れることになる。朝の辞令交付式に出席して,依願免職辞令を受け取った。それから最後の引継ぎ仕事をいつも通り夕方過ぎまで取り組み,最後のご挨拶をして,いつも通りに職場の正門を後にした。
 何かを誰かのせいにするのではなく,何かを誰かのおかげですることに転換していきたい。そのためには自分の中の現状満足や他人まかせする誘惑と闘わないといけない。そんな闘いが今日に繋がったのだと思う。慣れ親しんだ職場を離れたいという私のわがままを理解して,快く送り出してくれる職場の皆さんに,あらためて感謝。だからこそ,これから歩む道筋も誠心誠意をもって努力していくことで恩返ししたい。
 人生を考えるとき,必ず思い浮かべる本がある。マイク・ハーナッキー著『成功の扉』。成功本としてはシンプルな内容だが,人生のターニング・ポイントを考えるには十分な力を持っている。著者曰く,
 何かを成し遂げようとするには,
   必要なことはすべて
  進んで実行する自発的な態度が必要である。
 このような態度で事に臨むことによって,私たちは様々な困難を乗り越えられるし,実のところ困難自体が雲散霧消してしまうというわけだ。ところが,少しでも何か理由をつけたり誰かのせいにしたりして「必要なこと」を「実行する自発的な態度」をゆるめたり省略しようとすると,途端にこの成功法則は効力を失うのである。だから筆者は,最後にゲーテの言葉を引用してみせる。
 実行できること,夢見ることができることは
 何でも実際にやってみることだ。
 大胆さのなかにこそ天才,力,魔力が宿る。
 これでピンとこないなら,WBCで活躍したイチローの生き様を思い浮かべてみてもいい。彼にはビシッと目標があり,それに向けてすべての言動がある。その迷いのなさこそ,彼を天才たらしめているのだろう。彼ほどシャープにできないにしても,私たちだって同じように目標へ取り組む自発的な態度をとるチャンスは平等に与えられているのだ。目指さない理由はない。
 この3年間で,職場に対して残すべき仕事に取り組んだ。それが私の置きみやげ。職場に残ってやりたい事柄はもっとたくさんあるには違いないものの,それが私のやりたいことの全てではない。だからこそ自分なりに目標地点を決めて,そして飛び出すことにした。もちろんこれは「結果的に」というお話し。実際には,ごく自然な流れのなかで起こった出来事。誰もがいつか通る道。