はじめてのHills

 東京出張,本日のお品書きは「東京研究」と「講演会参加」だ。主菜は情報教育に関連する「講演会参加」なのだが,午後からなので,前菜として「東京研究」。要するに街角探検をする。

 ところが,昨夜からあいにくの雨。五月雨の季節だからだろうか,晴れって言ってなかったか,天気予報さん。雨の中を歩くのは避けたい。さりとて,歩き回ってナンボの東京探検。あれこれ考えて思いついた研究対象は,「六本木ヒルズ」だった。そうだ,まだ行ったことがない。
 そんなわけで,ライブドアだとかのIT企業や外資系投資銀行などがオフィスを構えていることでも有名で,フジテレビのドラマ「恋におちたら」の舞台でもある六本木ヒルズへと乗り込んだ。
 東京メトロの日比谷線六本木駅で下車すると,あらら,駅は工事中。六本木ヒルズの入口となるべく生まれ変わる最中のようだ。そんなエリアを抜ければ,おしゃれなイメージに合う近代的な施設へと紛れ込むことになる。

 いやもう,完全にお上りさんなので,素直にヒルズ・ツアーに参加することにした。訪れる観光客のためにツアーが用意されているのだ。ご存知の方も多いと思うが,六本木ヒルズは辺り一帯の施設全体の呼称であり,その中心にそびえ立つのが森タワー。その高層階にある展望施設と美術館などをメインとしていくつかのツアーメニューが設定されている。とりあえず一番間近に出発するツアーを選ぶことにした。


 平日のお昼前,しかも雨の日のツアー参加者は少なかった。ツアー受付デスクでの申込みでは,待ってましたとばかりに研修生がツアーの受付を実地訓練。私はすっかり練習台になっていた。初々しいのか,たどたどしいのか,初任者特有の間合いでコースを紹介される間,周りにいる美人な先輩たちが私たち二人のやりとりをじっと見て微笑んでいたりするのである。平日で人いないから‥‥視線がチクチク。その滑稽な練習風景に私が笑わずにはいられなかったら,相手の研修生も「あ゛はは」と笑ってしまった。こらこら,アナタが笑ったらイカンでしょうが(^_^;。
 それから,立派な待合室に案内されて,しばらく待つ。どうやらツアーメンバーは,私とあと若い女性一人。しかもこの女性,インフォメーションスタッフの方で,要は身内の研修みたいなもの。なんかそういう場面が多いなぁ‥‥。でも,出発ぎりぎりにおばさまが一人やって来たので,ツアーガイドさん含めて計4人で回ることになった。
20050530_tokyoview ところが,早速ヒルズ自慢の展望スペース「東京シティビュー」(52階)に上がったら,ウィンドウの外はまっ白!これ(おっ,写真を入れるのは初めてです)は,反射して白く見えるのではなくて,本当にまっ白だったのだ。「ある意味,とても珍しいです。とれもレアですよ」と本気だか,慰めだか,冗談だか,わかんない案内。パンフレットに印刷された360度写真を片手に,想像力で景色を展望するという高度な技を駆使していった。それにしても森タワーの造りは贅沢である。そっちの方しか見ようがない‥‥。
 展望フロアには,この後の美術館とは別に現代アートのオブジェが展示されていたり,ホンダ技研のASIMOくんが住んでいるスペースもあった。常設展示らしい。いつでもASIMOくんを見ることができるはずだが,なぜだ!なぜ動いてないの? 「あ〜充電中みたいですね。ざ〜んねん」(byガイドさん)って,笑顔で済まさないでぇ〜!ASIMOく〜ん!
 その後,ツアーは森美術館(53階)へ。いま開催中の展示は「秘すれば花」という東アジアの現代美術展,そして「ストーリーテラーズ」という物語を紡ぎ出す作品を集めた現代美術展。シンプルながらなかなか興味深い展示だった。ガイドのお姉さんも解説文を参照しながら頑張って紹介してくれるが,基本的に「現代アート=よくわからん」という意識が強いらしくて,「現代アートですから」というフォローのセリフがやたら多かった。もうちょっと素直に味わおうよ。
 まあ,とにかく,女3人男1人,計4人のツアーも一通り終わり,あとは自由。50階から53階までのエリアは,チケットがあれば何度でも行き来ができる。少しばかり霧が晴れる瞬間も出てきたので,もう一度展望スペースを見て回るが,またすぐにまっ白。ああ。
 それから,招待券をもらったので,これも開催中の「ジョルジオ・アルマーニ展」を見た。ファッションに詳しくはないが興味はあるので,たくさんの衣裳に圧倒されながらゆっくりと見て回った。じっくり見ると,完成度がわかってくる。というのも,一見素人目に派手に見える衣裳でも,じゃあ要素をマイナスしていったときに,その衣裳が持つ存在感や雰囲気などが失われるんだなということが,見えてくるのである。生身の人間が身につけているとジロジロ見るわけにもいかず,そこまで思い至らないが,展示を見て改めてデザイナーの力を感じた次第だ。それと,アカデミー賞授賞式にスターが着た衣裳がずらっと展示されていたのも面白かった。係りの人に聞いたら,さすがにスターが着た衣裳そのものではないそうだが,スターの名前を見ながら「そうそうこんな感じの着てたなぁ」とか見入ってしまった。ため息だらけ。
 さらに,ここには森都市未来研究所という展示施設もあって,ニューヨークと東京と上海の街を再現したジオラマが展示されている。森ビルが自前で行なっている都市研究の成果が反映されているらしい。ニューヨークのジオラマは,数年前に出掛けて街角探検したことを思い出しながら見た。都市の大きさも直感で比較できるため,いかに東京が広大な範囲で構成されているのかもわかる。意外とニューヨークとか上海はコンパクトなのだ。
 売店でキーホルダーのおみやげを買い,やっと下へ降りる。レストランフロアで食事をしようと思ったが,決めるまでぐるぐる回る。結局,カレーの中村屋さんへ。当然,ヒルズで働いている人たちも多く利用している。要するにエリア全体,あのドラマの世界に近いものが展開しているわけだ。なぜか緊張する。でも,こういう「場違い」感覚にはすっかり慣れたので,緊張しつつも,紛れ込むことを楽しんでいた。風貌は,ノーネクタイのシャツでクリエイターっぽい感じで出掛けたので,見た目はとけ込んでたと思う。たぶん。
 さて,もうそろそろ「講演会参加」のお時間。しばし過ごした六本木ヒルズという空間をあとにする。見て回れたのは,私たち観光客が入れるパブリックなスペースのみ。そしてご存知のようにオフィススペースは,セキュリティゲートを隔てて確保されている。教育研究なんて仕事を地方でやっている人間なので,そういう仕事空間とは縁がない。縁がないだけに,とても興味深いなぁと思う。
 ライブドアの堀江社長や広報ウーマンの乙部さんたちの仕事ぶりをメディアやブログを通して見ると,そういう場所で活躍するという経験も,やってみたかったなぁなんて思うのだ。だから,今日はちょこっとだけ,その空気を感じてきた。面白かった。