月面着陸問題

 本屋に出かけたら,副島隆彦『人類の月面着陸は無かったろう論』(徳間書店2004/1600円+税)が目に入った。昨年,テレビで話題となった問題である。昨年末の特番を途中から見た記憶もあるので,興味を持っていた。それに著者である副島氏の英語関係の本は,勉強させてもらった経験もあるので,どれどれといった感じで手に取ったのである。
 米国宇宙開発「アポロ計画」の一つとして世界中の人々が記憶にとどめる35年前のアポロ11号月面着陸。その科学史と人類史に残る偉業とされる出来事は,大嘘であったという論がある。それは当時から疑われていたらしい。ここにきてテレビ番組として扱われたことによって,その疑念が広がり始めたという。この本は,それらを踏まえて,著者の示す4つの論点において議論を挑もうとする書である。そのほか,当時の記録や映像について徹底的に疑念を表明し,人類は月面着陸していない証拠を提示していく。


 「問題」自体について,この本だけで結論を出せるほど私に判断材料がない。ただ,言わんとしていることはわかるし,もう少し構成を整理してくれれば,その疑念をもっと共有できると思う。
 そうなのだ,この本は残念ながら「読みやすい」本ではない。というのも,著者が自分のWebサイトで会員向けに公表した論考を時系列的に収録した形をとってしまったために,議論や著者の心情の流れは見やすいのだが,肝心の論を支えている論点や証拠が散乱した印象になって,どうもスッキリしない読後感なのである。
 これは編集者が悪いパターンの方である。最終的には売れて読まれればいいのかも知れないが,テーマと議論の周辺状況を考えると,巻頭には書き下ろしで主張を整然とまとめた章が置いてあってもよかったように思う。
 何故「読みやすくない」かというと,途中に差し挟まれる「議論そのものの在り方」の文章や理科系人間への論難などが読み手の焦点を振り回してしまうからなのだ。それに「だ・である」調と「です・ます」調(もしくは「下さい」調)が急に切り替わるので,「それに何か意味でもあるのかな」とよけいな詮索を誘発させる。すでに公表されているものをそのまま収録したのだとしても,こういうのは編集段階でどうにかすべきことがらである。昨今増えているコピペ編集出版物の初歩的な手抜き方だと言われても仕方ない。
 副島氏は英語辞書論争後,法学や政治学関係を始めとして分野を横断した発言を行なっている。そちらの著書もよく見かけるのだが,私自身の興味不足で読む機会はなかった。そちらはこんな事はないと思うのだが,久しぶりに著書を読んで,違ったところでがっかりしてしまった。議論自体は興味深いのだけれど。
 事実と思われていたものが事実でなくなることによって,たとえば教科書や教育内容が変わるということが起こる。考古学における旧石器発掘ねつ造事件などは記憶に新しい。月面着陸問題もまた次元が異なるが,そういう問題へと発展するのか。気になるところである。