みんなのデジタル教科書教育研究会Liveを終えて

 7月31日土曜日の夜に,「みんなのデジタル教科書教育研究会」のメンバーによるUstream生放送を行なった。略して「デジ教研Live」である。

 「みんなのデジタル教科書教育研究会」(以下,デジ教研)は,立場を問わずデジタル教科書が入り込む教育について関心のある人々が集って意見交換や議論を共有する目的で始まった。会費は無料の有志集団である。

 一方,企業・団体が集まって立ち上げられたのが「デジタル教科書教材協議会」(DiTT:ディット)という民間組織である。そちらは法人会員のみのいわゆる業界団体だ。設立シンポジウムは世間の注目を集めたし,今後様々な動きを見せるのだろうけれども,個人が関わることを前提にはしていない。

 デジ教研は,「デジタル教科書」というテーマを,関心のある人たちの手もとに引き寄せて,私たちも考えていこうという思いを形にしたものだと,私は理解している。

 Twitterやメール(メーリングリスト),掲示板を使ったやりとりが少しずつ始まっており,興味深い意見も交わされている。

 願わくは,会が賑やかに継続していくことを期待しているのだが,私自身の経験上,文字ベースのコミュニケーションには山あり谷あり,次第に勢いが衰えて,疎遠気味になる事例も珍しくない。

 たとえば,早い時期にあるテーマの議論が済んでいると,会の新参者が同じテーマを議論する際に「すでにそのテーマは扱いました」とか「アーカイブに議論がまとめてあるから読んどいて」みたいな対応を受けてしまいがちだ。

 議論がまとめてあるのは有り難い話だが,会の趣旨である意見交換や議論を共有したことにはならないのではないか。単に情報を共有することだけでなく,一緒に考えていく経験(端的に言えば時間)を共有することも必要なのだと思う。

 (もっともそれを曲解すると国会や審議会の審議みたいに「○時間審議したから十分」という身も蓋もない根拠に使われることになるけれど…)

 そういう場合,会の活動を活発化させるアイデアとしては,会報を定期的に発行するとか,集会や研究会を開くとか,イベントを開催するとか,そういう類の活動刺激をつくっていくことである。

 デジ教研は全国にメンバーが散らばっているので,どこかに集まることは難しいし,普段から文字ベースでコミュニケーションしているのだから,いまさら会報を出すのも新鮮みがない。

 というわけで,だったらUstream番組を定期的につくっていくことで,声のコミュニケーションを取り入れてはどうだろうかと思った次第である。Twitterと縁の深いUstreamを使わない手はない。発想は安易だが,よいアイデアだと思った。

 発起人の片山さんなどに投げかけたら,好感触だったので,さっさと日にちを決めて実験放送を実行することにした。それが7月31日だったというわけである。

 デジ教研Liveは,当初Skypeの会議通話を使って,複数の人たちと会話しながら,その音声をUstreamで放送する予定だった。私は技術調整係として,Skypeをホストし,Ustreamに流す仕事をすればいいだろうと考えていた。

 ところが,いざ会議通話を使ってみると,たった3人の会話さえうまく交わせないことがわかった。マシンの非力さか,回線の細さか,理由は様々だろうが,当初の予定通りにはできなくなった。

 Ustreamへの送出は私が担当していることもあって,私がSkypeでいろんな人の話を聞くというスタイルで進むことになった。

 第一部は,「みんなのデジタル教科書教育研究会」発起人である片山さんとおしゃべりをした。デジタル教科書が話題になってきたいきさつや会の紹介を目的としたものである。
 片山さんは,新潟の小学校の先生であり,地域の情報教育の研究にも尽力されている現場のエキスパート。そんな片山さんが呼びかけをした会だから,現場の先生方のメンバーも多いことが特徴だ。そこに様々な分野のメンバーが加わって,会の幅が広がっている。

 第二部第三部は,山形の大学に勤められているスットコさんにいろいろ話を聞いた。情報技術と教育の関わりについて長らく追いかけられている経験からデジタル教科書と教育の関係についてや,ご自身の取り組みも含めておしゃべりいただいた。
 スットコさんは,コンピュータネットワークを活かした教育を注視している研究者であると同時に,Twitterからは電子楽器やVJといったデジタル・カルチャーの実践者としての顔も見える。

 第四部は,再び片山さんにご登場願って,感想を聞いたり,補助教材の実際について解説いただいたりした。こうした現場の様子を語っていただくことも大事かなと思う。

 一旦,放送はここで終わる事にしたのだが,放送前から手伝ってくださると約束していた方がいたので,その方を待って,強引に第五部をスタートした。

 第五部は,山梨で公立図書館の館長さん(指定管理者館長が正式なのかな?)をされている丸山さんにご登場いただいた。図書館の立場から見たデジタル教科書や教育の情報化に関しておしゃべりしていただいた。
 教育現場と関係しながら,また違った角度からのお話は興味深いものであり,丸山さん自身が開発者という経験をお持ちで,知のエコシステムといった大きな枠組みに関する議論につなげて考えられていたりと,刺激的な話題が多かった。お疲れのところ申し訳なかったけれど,ご登場いただけたのは幸運だった。

 というわけで,実験放送のつもりが,一晩にお三方のお話をお伺いすることができ,しかもリアルタイムで30名程度の聴取者とTwitterのコメントにも恵まれ,大成功の内に幕を閉じた。

 こうやって,いろんな人たちの声を素直に伺ってみるだけでも,今までの議論をもう一度振り返ったり考え直したりできるし,もしかしたら新しい視点を得られるかもしれない。デジ教研Liveの可能性はいろいろ広がっているように思えた。

 どうしてもこれまでデジタル教科書は,ソフトバンクの孫正義さんとか,慶應義塾大学の中村伊知哉さんとか,それから,蔭山英男さんや藤原和博さんといった有名どころの人々ばかりが発信している話が話題になりがちであった。

 けれども,現場に近いところの人々の発信する話の方が,もっと現実的だし,もっと面白かったりするし,もっと刺激的だったりする。

 デジ教研Liveの活動は,デジタル教科書に対する人々の声を引き出す,とても大事な取り組みの一つになるように思う。私もできる限りお手伝いしたい。

 デジ教研Liveは,有志が多元的に展開する取り組みなので,もし「私も誰かの話を伺って放送してみたい」と思ったなら,会のUstチャネルを借りて実践することができる。

 そうした活動にも関心がある人は,「みんなのデジタル教科書教育研究会」に参加して挑戦してみてはいかがだろうか。

 個人的には,どこかの小学生や中学生も会に参加してくれて,デジタル教科書に関する調べ学習の中でインタビューを放送してくれても面白いなと思う。