そして誰もいなくなった ((英国旅行記-11))

 いよいよ英国滞在最終日。帰国の翌日にある研究会のレジュメがまだ形になっていないので入力しなければならないという宿題があり,勉強場所を探してロンドンをさまよう。
 大英図書館に再度足を運んだら,今日が日曜日でお休みだって事を知った。ああ,日本だったら開いていそうなのに…。それに駅のトイレは20pで有料。こんなとき異国の面倒くささを感じる。
 日本にたくさん不満があって,いつも身内の文句ばかりを書き綴っている。けれども,こうして諸外国に出てみると,日本の直しべきところだけでなく,日本の良さも強く感じる。むしろその良さがどんどん失われていくことに危機感を抱くことが多いのか。
 日本国の国籍はあれど,どこか純粋日本人です,と思えない自分がいる。日本の風土が好きだし,それを愛国心というなら,私にも十分あるような気がしている。けれども,私は根無し草みたいな人間。片隅にも住まわせてもらえないなら,どこかへ流れていくしかない。
 正月早々から日本を旅立って英国の地にやってきた。途中,他の研究者の先生方と合流して,学校視察などに同行。一通り仕事が終わると,皆さんは帰国。そして周りに誰もいなくなり,また一人でスタバに長居している。
 浮き足立っている自分が,ますます世界から切り離されて漂い始める。理屈を考えるには都合がいいが,人々と一緒に社会の中で生きていくことを前提として研究をしていくことから遠ざかってしまう。
 そろそろ,この迷子の研究者にも潮時が近づいているのかも知れない。残された時間はたったの2年,あるいは運がよくても5年。その間に自分の満足いくように未来が見通せないなら,違う世界に出かけた方がよいのだろう。諸外国に飛び出るたびにそんな危機感が増す。日本は研究者にとってはますます生きにくい国になっているし…。
 イギリス・ロンドンは素敵な街並を持った場所であった。それを肌で実感できたことは大きな収穫だった。視察した学校の子ども達はそれぞれ魅力的だったし,先生達も日本とはまた異なった専門職意識のうえで誇りを持って仕事をされていたのは,同じ教育に関わる人間として嬉しかったし,羨ましくあった。
 まだまだ観光すべき場所が残っているのだけれど,これで時間切れ。足りない分は,自分の想像力で補うことにしよう。物理的移動による旅行は貴重だし,体験できることも多い。けれども,想像上の空想旅行も素敵なものである。現地の空気や感触は,今回の旅で手に入れた。それを手がかりに想像上のロンドンに旅してみるのもまた楽しい。
 やがて時は流れて,フライトの時間がやってくる。いくつかの忘れ物を残して,この場所を後にしよう。そのとき,誰もいなくなる。