携帯電話の教育活用セミナー

20061020_keitai 品川の東京コンファレンスセンターで,社団法人日本教育工学振興会主催の「携帯電話の教育活用セミナー」が催された。研究プロジェクトの末席に加わっているので,発表の担当ではないが,出席する。
 教育と携帯電話。この前哨戦は,教育とポケベルという問題で90年代初頭から始まっていた。94年に葉月里緒奈,95年に広末涼子がポケベルをCMの中で印象づけ,料金低減と端末お買い上げ制によって「自分のもの」としての所有欲を満たし始めた。いまは少なき公衆電話が,我が世の春を謳歌していた時代でもある。中高校生が公衆電話のプッシュボタンを高速で押しまくる「あの音」も懐かしい。すでにこの頃,学校に通信端末が入り込む風穴が開いていたのである。
 ポケベルが個人を狙い打ちしてメッセージを送信できる可能性を印象づけた。やがてPHS・携帯の普及によって発信さえ個人の手中に収まると,偏在する発信者と受信者の間で,膨大なメッセージ交換行為が発生しはじめる。
 そして,街中の至る所で小型の電話機に大きな声で話しかける人々の姿があふれ出していき,i-modeに代表されるメールや情報閲覧サービスの普及がで黙々と小型端末を操作する人々を生み出したのはご存知の通りである。
 少なくともそんな流れで10年もの時間が経過した。宣伝文句の真偽はともかく,毎年繰り返される新機能の追加による端末進化が私たちのパーソナルコミュニケーションを変革してきたことが本当だとしたら,すでに10回も変革してきたことになる。もしくは携帯端末の世代に基づけば,第3世代携帯を得ているので,3回の変革を迎えたことになる。
 多く見積もって10回,少なく見積もって3回の変革が起こった経験を踏まえ,教育現場にもそれなりに対応策の蓄積が共有されているだろう,と皆さんは考えられるかも知れない。
 ところがそうでもないのである。教育現場もまた消費者と同じように目まぐるしい変化に眩暈し,メリットとデメリットの見極めさえ定まっていない。どちらかといえばデメリットの方が安定して浮かび上がるため,懸念態度のほうが取りやすい(そうでなければ,キャリアの回し者みたいな風になってしまう)。
 ここにも教育現場を支援するための全般的な環境不整備や支援活動の届かなさの問題が見え隠れするが,まさに今回のセミナーは,教育現場に携帯電話の教育活用のイメージを伝えるための貴重な機会というわけである。
 3年間の研究プロジェクトが推進してきた様々な携帯電話の活用事例の紹介と,事例研究から得られた知見を発表するという内容。全国からたくさんの教育関係者(教委や教育センター含)の皆さんや携帯キャリア企業の皆さんも参加し,熱心に耳を傾けていた。
 今回の発表は小学校段階の実践が中心であったため,中学・高校レベルの事例が乏しく,最後には中高段階への要望も多かった。また「教育活用」という一歩踏み込んだ事例を提案することを目指していたが,実際には携帯電話の学校への持ち込みに対してどう対応すればよいのかという初期段階の問題から,情報や携帯モラル教育等を体系的に実践するためのカリキュラムをどうすればいいのかという根本要望まで,多様であったように思う。
 なにしろ3年のプロジェクトの間にも,機能の追加による端末進化やサービス変化があり,試行錯誤の苦労が必要なくなったり,まったく新たな使い方が提案できたり,追いつかない部分も出ている。具体的な実践のための条件を全く同じに整えることが難しいわけだ。(あの機種ではできて,これでは出来ないとか…)
 セミナー中にも「キッズケータイでなく,教育ケータイが欲しいですね」という言葉が聞かれたが,これは冗談ではなく,教育活用に必要な最低限の入出力や機能や操作性みたいのところを規格化して各社にフォローしてくれないと,学校現場に携帯電話を備品として入れるための道筋が出来ない。
 (要するにパソコンと同じで,「マック」と指定するとアップル社の指名買いになるが,「ウインドウズ」と指定すれば,とりあえずいろんなパソコン会社のものを合い見積りできる。これに倣って「教育ケータイ」と指定すれば全てのキャリアからの見積りがとれるようになれば,導入しやすい。)
 「学校の備品としての携帯電話を教育活用する」というお話がある一方で,すでに生徒や保護者が持っている携帯電話とのやりとりといった活用事例もある。学校に持ち込まれる携帯電話もこの部類のお話。
 今回のセミナーでも多くの同意を得ていたとは思うが,携帯電話の教育活用が定着するためには,日常的な利用に与するような使われ方がなされなければならない。そこで学校と地域・家庭を繋げる手段としての携帯電話の活用事例も紹介された。それはあくまでも連絡の補助ツールであることを自覚して使うという条件。
 こうやって先生自身や子どもたちや保護者など,個人所有の携帯電話を利用することによって問題となるのは,そのためのコスト負担をどう考えるのかということである。
 結局はお金の動きが全てを決めるということになろのだろうか。研究プロジェクトを支援する企業の皆さんにとっても,最終的にはビジネスとして成功しなければ,自分たちの体力が消耗するだけで意味がなくなってしまう。
 そんなわけで,いくつかのアイデアが浮かんでくる。たぶんこれを早くに手をつけたところが市場を制することになるかも知れない。
・「eduケータイ」に関する仕様を策定し,キャリアと協働して展開する。
・フリーダイヤルならぬ「フリーアクセス」サービスによって教育利用にかかる通信料金をゼロ化する。
・「教育通信費補助金」(仮)が通信料金などへと適用可能な課金システムの開発。
などなど
 おっと商売人になってしまった。けれども,こうした基盤整備やアイデアを実現しなければ,本格的な携帯電話の教育活用は遠いと思えるのである。

携帯電話の教育活用セミナー」への1件のフィードバック

  1. モバイルな お仕事

    ケータイ(携帯)電話を情報ツールとして使うには?(1)

    いつも手元にある道具、それはケータイだ。 使い方次第では実に便利な情報ツールとなる。

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