文月27日目

 昨日は,ベネッセの研究助言のお仕事と学習科学研究会に出席。朝から夜まで頑張った一日だった。どちらも今年度に入ってからのご縁で,私にとっては視野を広げる有り難い機会だ。
20060726_gkkj 前者は東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座(BEAT講座)の客員助教授・堀田龍也先生にお声掛けいただき共同で研究と助言している仕事。そんなわけで,私も東京大学大学院のBEAT講座アソシエイツとして(本当に)末席に名を連ねている。ちょっとだけでも,そういうところに名を連ねるのは正直嬉しいことだ。
 とはいえ,いろいろ事情もあって名前を連ねるのは9月まで。共同研究自体は継続するので,別に何も変わらないんだけど,せっかくなので名を連ねているうちに,記念撮影のつもりでここにも書いておきたかったわけである。半年お世話になりました。感謝感謝。(追記:写真は定例会議のあった敷地内で皆さんと。都内の某所にある。)
 学習科学研究会は第2回目。『The Cambridge Handbook of the Learning Sciences』という学習科学に関するハンドブックをみんなで講読している。学習科学というのは,学習に関する学際的研究領域だと紹介されている。素人として乱暴な説明をしてみれば,教育心理学が心理学全般を教育に適用しようとする研究分野なのに対して,学習科学は認知心理学の知見を主軸に学習を科学しようとしている領域だと考えればいいのではないかと思う。
 学習科学に関する日本語の文献は徐々に増えているようだが,まだ豊富とは言えないようだ。とりあえず関心がある皆さんは,放送大学テキストに学習科学関連のものがいくつもあるので,それらから手をつけるといい。
 学習科学の研究会に参加して,異なる研究領域の異なる流儀に慣れ親しむことの難しさを体感しているところだ。たとえば,現場で活躍している先生方と教育研究者とが意見交換するときに,同一の現象を説明しているにもかかわらず,使う言葉や説明の仕方が全く違うことがある。つまり,現場の先生は個別具体的な授業・子供の様子を表現するのに対して,研究者は抽象化または一般化した言葉や理屈で表そうとする。たまに横文字なんかも出てきて,現場教師と研究者とでは言葉が通じないと言われたりする。
 それに似て,学問世界でも分野が違えば言葉や流儀が異なる。あるいは何は自明視されていて,何は合意に至ってないのかも違う。カリキュラム研究と学習科学は,見ている対象はかなり重なるはずなのに,やはり言葉や流儀が違う。
 たとえば学習科学には「デザイン研究」という言葉がある。なぜこんな言葉が独立独歩,意味深な雰囲気を伴いながら登場するのだろうか。教育研究者は最初面食らう。学習科学における,何か独特な手法の研究なのだろうか。いろいろ考えながら文献を読んだり,皆さんの議論に耳を傾けるが,どこが独特なのかよくわからない。
 そして,手元にある限られた資料を一通り眺め直して,ようやくある種の確信を抱くに至るのである。「なんだ,デザイン研究というのは,学校づくりをしている私たち現場の日頃の努力そのもののことじゃないか」と。もしかしたらこれは教育心理学とのかかわりで「アクションリサーチ」と言っているものに位置するそれを,学習科学として「デザイン研究」という言葉で再配置しているものなのだろうか,と思えてくる。
 さらに妄想を働かせると,おいおいデザイン研究ってのは広義のカリキュラム研究のことであって,わたしらカリキュラム研究者は知らないうちに他領域の方々から領域侵犯されているんじゃなかろうか,とだんだん思えてきた。まあ,最近のカリキュラム研究は脳科学の知見を借りようと頑張ったりもしているので,領域侵犯はお互い様か。もうちょっと建設的なコミュニケーションをして,もっと力を合わせるべきだと思う。
 こういう関係性の確認作業を一つずつこなして,さらに諸外国と地続きな研究コミュニティの流儀を読み取っていくのに頭がいっぱい。あれこれ固有名詞や研究プロジェクトもあって,「なるほど,そういうものがあるのね」の連続である。
 長丁場の研究会。最後の方は眠気とも闘いながら,学習科学の議論に身をゆだねていた。ぼんやり思ったのは,日本の教育実践研究も学習科学の観点から記述しようとすれば,世界に通用するレベルにある気がしたこと。教師の資質的な部分に多くを拠っているという点は問題視されるかもしれないが,逆に言えば,改めて日本の教師はすごいということ。だから日本の教育現場が学習科学を踏まえて自分たちの実践を意識し始めたら,鬼に金棒かも知れない。
 ただ,百本足のムカデが自分の踏み出す足を意識しすぎて動けなくなったという寓話もある。終わらない問いへの限りない努力はするとしても,一方では自然体で事に当たれるようにもしたいものだ。

文月27日目」への2件のフィードバック

  1. ナカハラジュン

    >日本の教育実践研究も学習科学の
    >観点から記述しようとすれば,世界
    >に通用するレベルにある気がしたこと。
    同感です。
    英語でしょうか、悲しいかな、問題は(笑)。
    ナカハラジュン

  2. りん

    >英語でしょうか、悲しいかな、問題は(笑)。
    はははは…,日々是精進。
    とはいえ,日本人のメンタリティを翻訳することは
    これもまた多難な作業なりて,一筋縄ではいかないか。
    とにかく前へ。

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